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last updated Jul.1,2002.



ゆっくり考えごとをしたいとき、ひとりになりたいとき、疲れをいやしたいとき、あなたはどこで過ごしますか。
ここでは、今、活躍している方々がそんなときに過ごすお気に入りの場所をお教えします。


新進の料理研究家・金椒玲さんは、横浜育ちの在日3世。
今日も海が見える公園で心をなごませながら、国と国との架け橋を開く「料理」に思いを馳せる…。






海が見える街、横浜。
生まれ育った街が、
何よりも心をなごませる。


 私のなごみグッズといえば、まず柚子茶。驚くほど柚子の香りが強くて、これからの季節はアイス柚子茶にしてもおいしいです。韓国には「伝統茶房」といって、漢方というか薬用茶を中心に出している喫茶店があって、そこでこの柚子茶も飲めるのですが、残念なことに関東にはその伝統茶屋がありません(関西にはあるのですが)。ただ韓国食材店に行けば手に入りますから、ぜひ一度試してみてほしいですね。おいしいですよ。
 それから「ゆず」や「フリッパーズ」のCD。「ゆず」を挙げたのは「柚子茶」に合わせ“柚子尽くし”でいこうというウケ狙いもあるのですが(笑)、まだ横浜の路上で歌っている時代からよく聴いていたんですよ。どのCDも、学生時代からよく聴いていたお気に入りのものです。
 また、好きで、なごむなあと思う場所といったら、「みなとみらい」周辺です。
 うちからそれほど遠くないので、自転車でやってきて、海の公園に行ってのんびりする。公園は、平日だと本当にあまり人がいなくて、穴場なんですよ。“フル装備”だと、自転車の荷台に「シート」と「お茶」と「クッション」と「本」を積んでやってきて、一日を公園で過ごします。お店とか、ビルの中に入ることはあまりありません。ただ必ず寄るのはランドマークの中の「有隣堂」という本屋さん。そこで本を見つけて、海の公園で読むというパターンですね。
 横浜は、私にとっては海が見える街なんです。昔友達に、横浜っていったら多摩川の向こうじゃないって言われたのですが、ピンときませんでしたね。こっちには海があるのよって、そう思ってました。去年まで料理の勉強に行っていたソウルでは海が見えないので、寂しいというか、何か落ち着かなくて。それで、ソウルには漢江(ハンガン)という大きな河があるのですが、時々その近くの公園に行って、海の近くにいる気分になっていました(笑)。




私を韓国料理に導いた、
祖母(ハルモニ)の味の思い出。


 料理の道に進もうと思ったのは、大学を卒業して会社勤めを始めた後です。
 私は幼稚園から高校まで14年間朝鮮学校に通ったので、いわば大学が日本社会への“デビュー”でした。それで、将来はどうしようとか、様子がまだあまりわからないうちに就職してしまったんですね。ただ学生時代に比べれば自由になるお金もできたし、時間の余裕もあったので、会社勤めのかたわらいろいろな習い事をやってみたんです。その中に料理学校もあって、私は何よりも食べることが大好きですし(笑)、料理って結構自分に向いているなあ、料理に関わる仕事をしていきたいなあ、と。で、本格的に料理を勉強しようと思い、会社を辞めて、ル・コルドン・ブルーという料理学校に通うようになったんです。
 コルドン・ブルーで勉強したのは、フランス料理と洋菓子についてです。コルドン・ブルーには合わせて2年ほど通ったんですが、やがて、このままフランス料理をやっていていいのかなと考えるようになりました。食というのは日常ですから、食べ続けることを考えると、私はフランス料理ではきっと満足できないのではないかと思ったのがきっかけだったと思います。
 じゃあ毎日食べ続けたいと思うのはどんな料理か。私にとってそれは祖母(ハルモニ)と母(オモニ)が作る韓国料理だったんです。
 というのも、母方の祖母はふだんから韓国料理がメインで、それだけしか食べなかったんです。祖母は韓国のいちばん南にある島、済州島の出身で、済州島は韓国ではいちばん料理がまずい土地という評判なんですが、祖母は料理が上手で、キムチも自分で作っていました。私はその祖母の料理が好きで、小さいころからキムチもパクパク食べていたんですよ。済州島は海の食材が豊かな土地ですが、祖母もアワビやサザエといった海のものが好きで、私にもアワビのおかゆとか作ってくれて、よくいっしょに食べていました。アワビのおかゆなんて今にして思うとたいへんぜいたくな料理ですけど、もうそれがおいしくて。
 本当は、韓国料理はもう少し歳をとってから本格的に習おうと思っていたのですが、自分が毎日食べたいのはやっぱり韓国料理だと思うと、少し早めだけども始めてみようかと。ただ韓国料理を習おうと思ったとき、日常の料理はもう知っているので、和食でいうなら「懐石料理」にあたる宮廷料理を習おうと思ったんです。
 それで2000年の夏から1年間、韓国の宮廷料理を教える学校に行ってきました。でも、いざソウルで宮廷料理を学ぼうとしてみたら、調理師の専門学校はあるのですが、料理学校は少なくて、まず学校探しがたいへんでした。やっとネットで見つけて、手紙を書いて資料を送ってもらったのですが、そこは開講日とかも決まっていないという、“韓国的にいい加減”なところで(笑)。




 でも、ソウルでの勉強は、そういういい加減さまで含めて、たいへんだったけどおもしろいものでした。習っている人もおばさんが多くて、よく「大学を出てるのに料理人になりたいの? 栄養士じゃなくて?」と聞かれて困りましたが、料理以外のふだんの生活のことを教えてもらうことができて、うれしかったです。
 習ってみたら、宮廷料理というのは決して特別なものじゃなく、私の知っていることの延長線上にあるものでした。食文化は国が豊かじゃないと発展しないものですが、韓国の宮廷料理ももう少したったらすそ野が広がり、ビッグバン的に発展して、“ヌーベル韓国料理”みたいなものが出てくると思います。それを同時代で見ていけるというのはわくわくすることですね。
 それから、私には、ひとつのものを知るとその国のいろんなものが見えてくるように思えます。フランス料理から、フランス人はああこんなふうに考えているのかとわかるとか、ですね。ですから、韓国料理からもいろんなことが見えてくるのではないでしょうか。これから私は料理に関わることを全般的に、できることなら何でもやっていきたいと考えていますが、韓国料理を紹介する時は、料理とともに、その料理に関わる文化や歴史も紹介していきたいですね。
 韓国は「近くて遠い国」だと言われています。実際、韓国の若い子たちと話してみると、日本に興味はあるのに日本のことを知りません。一方で日本の若い子たちは、そもそも韓国という国について興味がなかったりする。まず興味を持ってもらうことから始めないといけないと思っています。
 今度の本は、ソウルにいるときから、自分で韓国料理を紹介できたらいいな、韓国の街や文化と絡めて紹介できたら、きっとおもしろいものになるなと思っていたのが、機会をいただけて思いがけず実現したものです。帰ってきてから、あんなこともあったね、こんなこともあったねと思い出しながら書いたので、楽しみながら書くことができました。
 料理は決して難しいものじゃないですし、韓国料理はおいしいというところから入っていってもらえる。私の本が、韓国に興味を持つきっかけになってくれれば、とてもうれしいです。
韓国料理はおいしい。
おいしいというところから、
韓国という「近くて遠い国」の
文化や歴史を紹介していきたい。




撮影/HARUKI
取材協力/有隣堂 ランドマークプラザ店
日本料理 おしどり
(パン パシフィック ホテル 横浜1階)


 
金椒玲 Kim Cholin

1970年神奈川県横浜市生まれ。大学卒業後、会社勤めのかたわら料理学校に通う。やがて将来は料理に関わる仕事をしていこうと志し、退職して料理学校の「ル・コルドン・ブルー」に入学。フランス料理と洋菓子などの講座を受講し、2000年夏から2001年夏にかけては韓国ソウルに留学。韓国宮廷料理を学んだ。『愛しのソウルごはん』(NHK出版)は、帰国後にまとめたソウル滞在記とレシピ集。





取材店
有隣堂 ランドマークプラザ店


[問い合わせ先] 電話:045-222-5500
[住所] 〒220-8172 神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1 ランドマークプラザ5階
[最寄り駅] 桜木町(JR根岸線・東急東横線 横浜市営地下鉄)
[営業時間] 11:00〜20:00

「有隣堂のホームページ」
http://www.yurindo.co.jp/index.html



取材協力店
日本料理 おしどり
(パン パシフィック ホテル 横浜1階)
四季の食材や彩りを映す「和」の食文化と美意識。伝統の懐石料理を、庭園を眺めながらのテーブル席や落ち着いた趣の和室で味わえる。


[問い合わせ先] 電話:045-682-0388
[住所] 〒220-8543 神奈川県横浜市西区みなとみらい2-3-7 パン パシフィック ホテル 横浜1階
[営業時間] ・朝の部  7:30〜10:00(土・日曜日、祝日のみ)
・昼の部 11:30〜14:00 ・夜の部 17:00〜21:00

「パン パシフィク ホテル 横浜のホームページ」
http://pphy.co.jp





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金椒玲 著
本体1,200円+税


在日三世の著者は大好きな韓国料理を学ぶために初めて祖父母の暮らす国へ。そこで味わったモノ、出会ったヒト、学んだコトをいきいきと描くエッセイ(もてなしは品数で勝負!?/キムチのタイミング/もみもみパワー/間食は腹溜り系/甘いお茶の記憶/ほか全8編)。 家庭で作れるおいしい韓国料理レシピ33品も紹介します。



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