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ゲーム脳の恐怖 (2002年7月刊)


 

著者・森 昭雄さんに直撃インタビュー

この本の読みどころは、ここだ!


(取材・文=高橋孝輝 撮影=高坂敏夫)




医学博士・森 昭雄さん
 京王線下高井戸駅から徒歩10分。狭い商店街の通りを抜けると、日大文理学部キャンパスが現れる。
『ゲーム脳の恐怖』の著者・森 昭雄さんは、その閑静なキャンパスの奥の研究室に、白衣姿で座っていた。
 北海道出身。日本大学医学部講師、ロックフェラー大学研究員、カナダ・クウィーンズ大学客員教授などを経て、現在日本大学と日本大学大学院研究科教授。
 大学の専攻は教育生理学だったが、やがて脳生理学に転向。脳内の神経回路をニューロンレベルで研究する、医学博士である。

 
編集部:
教育専攻出身で脳生理学者とは珍しいですよね。

 
 森 :
 自分でも珍しいキャリアをたどってきたと思います(笑)。
 どうも私には「末梢(神経系)」から「中枢(神経系)」へという志向があったようですね。大学院時代は医学部で筋肉の動きの基礎研究をしていたんですが、やがてその筋肉を動かす脳に興味が移った。脳も最初は脳幹をやっていたんですが、やがて大脳皮質へ。大脳皮質の感覚野や運動野といったあたりを研究するようになりました。



きっかけは新開発の「脳波測定装置」
 それにしても『ゲーム脳の恐怖』は本当に怖い本である。何しろ、テレビゲームに没頭していると脳波の出方が変わってきて、やがて痴呆症状の脳波と同じようになってしまうというのだから。ちょっとだけその変化の内容を紹介すると……。
 脳波ではα(アルファ)波、β(ベータ)波、θ(シータ)波やδ(デルタ)波などが知られるが、森さんは脳の活動レベルを示すβ波に着目。
 テレビゲームを始めると、被験者のかなりの割合ですぐにβ波が激減することを発見した。普通はゲームをやめれば元に戻るが、1日に何時間も毎日ゲームをやり続けてきたような人だと、ゲーム中もゲーム後もβ波がほとんど出ていない人もいた。
 このほとんどβ波がα波よりも出にくいか、あるいは出ていない人の脳を、森さんは「ゲーム脳」と名づける。
 また、α波とβ波が重なってしまうゲーム脳の初期段階を「半ゲーム脳」と位置づける。そしてこの脳波の形状は痴呆症の患者さんも同じだった。

 
編集部:
「ゲーム脳」という考え方は、森さん自身のゲーム体験から生まれてきたのですか?

 
 森 :
 いや、私はテレビゲームはほとんどやったことはありませんでした。今でも実験のために少しやってみるぐらいです。
 発見のきっかけは高齢者の脳機能を調べようと、新しい脳波計を開発したことでした。「痴呆レベル」を定量化(数値などはっきり目に見える形で示すこと)したかったのですが、ファンクショナルMRI※とか光センサなどのハイテクを使ってもなかなか実現できない。
 そこで脳波でできないかと、α波と、従来ほとんど研究されていなかったβ波を組み合わせて使うことを考え、そのための脳波計を作ったのです。
 すると、痴呆症の患者さんでは、その脳波計で得られたβ波の割合が減少していた。健常者(痴呆症状のない人)の場合、圧倒的にβ波の割合が多いのですが、痴呆症の患者さんははっきりとβ波の出方が少なくなっていたのです。その結果、研究的には、「β波の割合」「α波の割合」を計算し、その数値が2.5以下だったら痴呆症状がかなり進んでいるということなどがわかりました。



機械が壊れているのか?
「痴呆レベルの定量化」は、それだけで極めて重要な業績ということができる。痴呆度は従来、「今何歳ですか」「100から7を引いていってください」などお決まりの質問をしたり、立ち居振る舞いを観察するなどして、定性的に決められていた。
 しかしそれが決して最良の方法でないことは、現在の介護制度の中での「痴呆度認定」に、家族側からしばしば不満が出ていることにも示されている。
森さんの新脳波計は大きな進歩だった。

 
編集部:
しかし脳波計の開発がどうして「ゲーム脳」の発見につながったのですか?

 
 森 :
 ある偶然の出来事があったんです。
 2000年頃、まだその脳波計が試作段階のときに、組み込みソフトの開発を頼んでいたソフト開発会社のプログラマーに被験者になってもらって、動作実験をしていたんですね。そしたら8人の被験者全員の結果が、おかしい。β波の出現の割合が低くほとんどが2.5以下だったんです。機械が壊れているのかと思いました。
 しかし、プログラマー以外の人で測定してみると、正常な結果が出る。なぜだろうと、被験者のプログラマーたちといろいろ話をしていたら、彼らは朝9時から夜遅くまで画面とにらめっこしていて、独創的なヒラメキというのはほんの一瞬であると思われます。また、家に帰ってもディスプレイに向かうことが多くてあまり口をきかないとか、言われてみると「自分でも少しオタクっぽいかな」と思うところもあるということでした。
 
これはと思いまして、最初、大学で、それまでテレビゲームを10年、15年やってきている学生を10名ばかり測定してみたんです。すると、β波がほとんど出なかったり、α波とβ波が重なっていたりいろいろな結果が出て、その後、無作為に幼児から大学院生まで全部で300名近く調べた中で、「ゲーム中にβ波がα波より低位 (つまりα分のβが1以下)になる人 ─ゲーム脳」が20%、 「ゲーム中もゲーム後も

β波が低位のままの人─半ゲーム脳」 が40%、 そしてゲーム脳の中でも「β波がほとんど出ていない人」が5%もいました。
 そこでβ波が出ている・出ていないを、「痴呆症」の問題とは別にテレビゲームとの関係の中で位置づけたのが、「ゲーム脳」という用語だったんですね。



「ゲーム脳」化すると人間はどうなる?
 アルキメデスの「お風呂」、ニュートンの「リンゴ」。科学の歴史には、いくつか発見にまつわる有名なエピソードがあるが、そこに2000年、「プログラマーによる動作実験」が加わった。本書『ゲーム脳の恐怖』最大の読みどころは、この「ゲーム脳」の発見までと、β波の出方により人を「正常」、「ビジュアル脳」、「半ゲーム脳」、「完全ゲーム脳」の4タイプにすっきりと分類して見せるところである。

 “ゲーム大国”日本に未来はあるのか? いや世界的にも数1000万台のテレビゲームが普及してきている中で、人類に未来はあるのか? どうすれば「ゲーム脳」化を免れることができるのか? 

 ここから先は本書のほうをお読みいただきたいが、森さんに少しだけお話しいただくと……。

 
編集部:
「ゲーム脳」化すると痴呆症になるんですか?

 
 森 :
 いいえ。高齢者と若い人では、脳波という現象は同じでも脳の機能的には違った現れ方をします。たとえば若い人は海馬とか側頭連合における「記憶」は大丈夫だと
思います。
 問題なのは、ゲームをやりすぎてあまりしゃべらなくなるなどコミュニケーションが取れなくなること、そのためもあって感情暴発が増えることなどです。これは、大脳皮質の機能部位で額付近にある「前頭前野」の活動レベルが低下することに関係していると思われます。
 前頭前野は意欲や判断、情動抑制に関わる重要な部位ですからね、その活動レベルが低下することは決していいことではありません。
 無気力な子ども、不登校の増加、凶悪な少年犯罪の発生など、最近の社会問題がすべてゲームのせいと言いたいわけではありません。
 しかし、少なくとも大きな原因のひとつにはなっているのではないでしょうか。
 私は、この本を特に親御さんに読んでいただきたいと思っているんです。そして子どもにゲームをさせるか、あるいはどんな教育をしていくか、考えてほしいですね。



※ファンクショナルMRI : 脳内の血流量の増減をもとに、その活動の高低を視覚化する装置。脳神経活動に伴った局所の脳血流変化を磁気信号の変化として捉えて,間接的に脳の活動を観察しようというもの。




 
森 昭雄(もり・あきお)

北海道生まれ。医学博士。カナダクウィーンズ大学客員教授を経て現在、日本大学教授、日本大学大学院教授。専門は脳神経科学。これまで脳内の体性感覚野と運動野の神経回路をニューロンレベルで研究し、現在は高齢者の痴呆や情報機器が脳に及ぼす影響についての研究も行っている。健康は脳のレベルでも考える必要があるという主旨で本年、日本健康行動科学学会を設立、理事長として活躍中。





『ゲーム脳の恐怖』

子どもたち、若者たちに蔓延するテレビゲーム。著者は、脳への恐るべき影響を、脳波計測データを解析し、明らかにした。意欲、判断、情動抑制など、人間らしさを保つために重要な働きをする前頭前野(ぜんとうぜんや)が、ゲーム漬けで危機に瀕しいる。どうすれば回復させられるか。脳神経科学者からの警告。
(森 昭雄著  定価:本体660円+税)



● 脳の関連本


NHKブックス『心を生みだす脳のシステム 「私」というミステリー』
茂木健一郎 著
NHKブックス『脳が言葉を取り戻すとき 失語症のカルテから』
佐野洋子・加藤正弘 著
NHKブックス『女の脳・男の脳』
田中冨久子 著
NHKブックス『脳からみた心』
山鳥重 著





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