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オバマの言語感覚〜人を動かすことば (2009年4月刊) 


 
日本のリーダーのことばが、かくも響かないのはなぜか。
『オバマの言語感覚〜人を動かすことば』著者
東 照二さん(社会言語学者)が
麻生と鳩山のことば力を斬る


麻生太郎首相と、鳩山由紀夫民主党新代表。政権交代の攻防が本格化するなか、リーダーとしての真価が問われるのはこれからだ。「政治はことばで動く」が持論の言語学者・東照二さんに、麻生首相と鳩山代表、小沢前代表のことば力を分析、リーダーに求められる言語感覚とはどのようなものかを聞いた。

 
政権交代は、長らく麻生と小沢の一騎討ちの様相を呈していた。いつも政局を仕掛け、グループ内では一定の求心力を発揮していながら、なぜ小沢は首相候補として生き残れなかったのか。
 
ことばの力を軽視していたことが決定的だろう。今回の代表辞任の直接的な原因はもちろん秘書逮捕事件だが、そういった逆境においてこそ、ことばの力を発揮するチャンスであった。国民が納得できるよう、説明責任を果たすべきだった。もともと小沢の話し方は、自分で「口下手」と言っているように、一文が冗長で論旨が一貫せず、グルグルとあちらへいったりこちらへいったりする“渦巻き型”。表現も定型的で明快さ、力強さに乏しい。皮肉なことに、秘書逮捕から辞任まで一貫していたのは、事件の本質、核心には触れずに、政権交代という自分の夢、「本懐」についてのみ語る自分中心のことばであった。その結果、国民のみならず身内である民主党からの信頼も得ることができずに代表職を去ることになってしまった。

これに対し、ことばの力で、敵を味方にすら変えてしまった政治家のモデルはオバマだ。大統領選中、オバマは黒人牧師の過激発言をめぐって絶対絶命のスキャンダルに巻き込まれたが、正にことばの力でその難局を乗り切った。それは、逃げないで真正面から問題に誠実に、真剣に向き合うことばであった。そしてさらに驚くことに、個人的な問題を、もっと広大で深遠な国民共通の課題へと発展、昇華させるという“フレームのスイッチ”を駆使したことばだったのだ。

加えて、アメリカが直面している経済の悪化、失業者の増加、教育の破綻、人種差別問題などの社会的課題を克服するために、数字やプランの羅列(事実中心の“リポート・トーク”)ではなく、ビジョン、情緒、人間性中心で共感を盛り上げる“ラポート・トーク”で、国民ひとりひとりの当事者意識を喚起することに成功した。


麻生首相と鳩山代表の党首討論を材料に、彼らが一国のリーダーに値するか、言語感覚、ことば力を診断してほしい。
 
 

麻生首相は、そもそもことばの力をあまり信用していないようだ。自分は評論家や学者ではなく、「政治家してるんですから」と答え、あくまでも、「現実問題」にこだわる。つまり、“事務処理型リーダー”を自認しているようだ。そのビジョンはと問われ、「小さくても暖かい社会」だという。しかし、その標語は国民からの注目を集め、国民との共感を盛り上げることばとはなっていない。「基本的にそう思っております」、「したがって〜というふうにご理解いただければと思います」といったような官僚、役人的な紋切り型のことばからは、熱い思い、情熱、真剣さはなかなか伝わってこない。

また、麻生は上から目線の話し方、皮肉っぽく相手を攻撃する話し方が目立つ。それがテレビを見ている有権者にどう映るか、その影響をわかっていない。人はリーダーの信頼性、誠実さや真剣さを、その人の話す内容だけでなく、話しぶりやしぐさ、表情といった非言語情報からも直感的に判断する。それらは見た目のことば、言語感覚といってもいいだろう。アメリカ大統領選でも、オバマとマケインのテレビ討論を見た有権者がオバマを『大統領らしい=presidential』と評したのは、怒りっぽく攻撃的なマケインに対して、オバマが相手の攻撃に対しても沈着冷静で呼びかけを絶やさないからであった。

一方、鳩山代表は、国民が互いに「他人の幸せが自分の幸せ」であると思えるような「友愛社会」の実現というビジョンを提示し、「古い政治よ、さようなら」と言い、日本に変化をもたらそうとする“変容型リーダー”を目指しているようだ。情緒、理念中心のラポート・トーク的なアプローチそのものは正しいといえる。また、「一言で言えば」「もっとわかりやすく言えば」といったことばを繰り返し、聞き手中心のことばを意識しているようにもみえる。攻撃的な麻生にも、「一緒に〜していこうじゃありませんか」と語りかけるなど、聞き手中心のことばの力を理解し、それを生かそうとしている点で、少し鳩山に分があるかもしれない。

しかし、せっかく三鷹第四小学校のボランティアの話など、具体的な人間の顔が見えるエピソードを引いていながら、「コミュニティースクール」「タックスイーター」など、庶民になじみのないカタカナことばを使うので、親近感、現実味が沸いてこない。いかにも都会の名門出身の人の言語感覚、「地方主権」と強調する割には、あまり地方の匂いのしてこないことばだ。 課題はいかに情緒と情報を融合させ、聞き手の共感を盛り上げるようなテーマとして広がりを作り上げ、聞き手からの反響を呼び起こすことができるかだ。今のところ、それは鳩山個人のウチの世界に留まっており、いってみれば知的上流階級のことばとして一抹の青臭さ、胡散臭さがつきまとっている。聞き手が自分のこととして関連づけることができるような、重層的なことばの広がり、進化が必要だ。ウチをいかにソトの世界に広げるかだ。

つまるところ、二人とも日本のリーダーとしてはことばの修行がまだ足りないといえる。

麻生 鳩山
冷笑・攻撃的 友好・呼びかけ的
現実的 理念的
官僚的・紋切り型 上流階級・都会的


第1回の党首討論では、日本の進むべき道筋や、国民の生活の将来像が見えてこないという不満が残った。次期首相候補として、二人は国民の不満を解消できるか。
 
日本の政治家に見られる「ことばの軽さ」は、国民軽視の表れだといわれても仕方ない。強い信念、将来像、ビジョンを明確に示す必要がある。 その際に重要なのは、国民を巻き込み、仲間意識を盛り上げ、あたかも自分たちの物語を語っているかのように感じさせることばだ。うわべの修辞やデータの羅列だけでは、人の共感を呼ぶことはできない。国民が本当に望んでいる政治の「変革」を実現するには、少なくとも、次の三つの要素をうまくことばのなかに取り込むことが必要だ。


  「変革」に必要なことばの三要素
  1. 相手が自分(聞き手)に語りかけてきていると感じさせること。というのも、私たちは、私たちに語りかけてくれる人を常に待ち望んでいるのだから。
  2. 自分(聞き手)が自分のことを知っている以上に、相手は自分のことを知っていると感じさせること。自分たちの生活、問題、悩みをだれよりも深く理解してくれている人にこそ、私たちは惹かれていくものなのだ。
  3. 相手と自分が対話をしていると感じさせること。一方的に上から目線で語りかけるのではなく、あたかも自分からも気軽に語りかけることができるかのように思わせることである。
     
  オバマのことばには、この三つの要素がすべて有機的に組み込まれている。それもわざとらしいことばではない。それは、まさに板についた本物のことばなのであり、だからこそ、人々は強く惹きつけられたのだといえよう。

「オバマ語」は、英語、日本語の壁を越えて通じる普遍的なリーダーシップの象徴である。オバマのディスコース(話法)やコミュニケーションスタイルは、日本の政治家だけでなく、すべてのリーダーにとっても学ぶべきところが多いはずだ(文中敬称略)。




 
東 照二 写真東 照二(あずま・しょうじ)

1956年石川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。テキサス大学言語学博士(Ph .D.in Linguistics)。立命館大学言語教育情報研究科教授。ユタ大学教授。専門は社会言語学。著書に『人を惹きつけることば戦略』『社会言語学入門:生きた言葉のおもしろさにせまる』(研究社)、『言語学者が政治家を丸裸にする』(文藝春秋)、『バイリンガリズム』(講談社現代新書)などがある。




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『オバマの言語感覚 人を動かすことば』
Contents
第一章: 時代が求めるリーダーシップとは
聞き手中心か、話し手中心か/事実を語るか、心を語るか/ことばに表れるリーダーの資質
第二章: 敵を味方に変えるものは
危機をやりすごすか、対峙するか/フレームを切り替える/人を動かすディスコース
第三章: 「見た目」か、「中身」か
距離を縮める親しみのフレーム/「大統領らしさ」を映すテレビ画面/スタイルか、内容か
第四章: 日本人はオバマになれるか
「オバマ語」は人をその気にさせる/ソトの世界をウチに巻き込む/コミュニケーションはタテからヨコへ。

(東 照二著  定価:735円 (本体700円))







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