伊坂幸太郎 クジラアタマの王様 未来を切り拓くのは、誰だ!? 伊坂幸太郎 クジラアタマの王様 未来を切り拓くのは、誰だ!?

書き下ろし長篇小説 7/9発売

©川口澄子(水登舎)

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STORY

夢を、見ないか

製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい……はずだった。訪ねてきた男の存在によって、その平穏な日常は思わぬ方向へと一気に加速していく──。
不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。
打ち勝つべき現実とは、いったい何か。
巧みな仕掛けが張り巡らされた、ノンストップ活劇エンターテインメント!

紙・電子版 同時発売!
クジラアタマの王様伊坂幸太郎
発売日 2019年7月9日  四六判上製 384ページ
ISBN  978-4-14-005706-3 C0093
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MESSAGE / INTERVIEW

伊坂幸太郎ファンタジーと見せかけて、かなり現実的な正統派エンターテイメント小説になりました。 伊坂幸太郎

── 今回、絵を使った表現が新たな仕掛けとして使われていますが、伊坂さんにとって初めての試みですよね?

 10年以上前からやってみたかった試みなんですよね。本のあとがきでも書きましたが、動きのある場面を今まで小説で表現してきて、これをコミック的なもので表現するとどうなるのか、小説とコミックがつながっていくような、そういう読書体験を自分自身、味わってみたいと思っていました。
 例えば、アクションシーンを小説で書いてもその面白さを文章で伝えるのはそう簡単ではありません。カーチェイスなんてその最たるもので、映像のカーチェイスをそのまま小説として書き起こしても、映像で受け取る情報ほどの面白さには正直かなわないんですよね。だから、小説で書くなら比喩的な表現や異なるアプローチからの工夫が必要だと思っているんですが、一度くらい、アクションを表現するのが得意な「絵」の力を借りて表現してみたい気持ちがありまして。

── すごくオリジナリティあふれる仕掛けになりましたね。

 今回のコミック部分はセリフがないのですが、それが独特の世界観を醸し出してくれていて、おかげで現実世界の話を書きながら、作品全体にファンタジーっぽい雰囲気も表れました。
 イラストを描いてくださった川口澄子さんの絵を初めて見たとき、日本的な漫画とも違う、シンプルでニュートラルな印象で、「これだ!」と思いました。川口さんはセリフがなくても絵だけで表現できる方で、おかげでイメージ以上の表現方法になりましたね。

── 小説と絵で棲み分けは意識されていましたか?

 絵と小説が互いにどう絡み合うのか、そのさじ加減が難しくて、試行錯誤を重ねました。基本的には、どういう絵を描いてほしいのかを、僕と編集者で考えて、川口さんに依頼するという形でした。絵の部分だけ読んでも意味はわからないけれど、そこが小説とどうからんでくるのかを楽しんでいただければ、と工夫したつもりです。
 そう言えば、今作は、小説で描いているパートはいたって普通の現実なんです。殺し屋もギャングも死神も出てきませんし、今までの作品を思い返してみても、突飛なものが出てこない作品って意外に少ないんですが、今回は、かなり現実的な要素で完結するエンターテインメントになったんですよね。その分、絵のパートがファンタジー的な要素を担ってくれているので、それによって作品全体のバランスがとれたかな、と。
 あと、中盤で、ある危機をどう乗り切るか、と考えていた時、いつもとは違って、「絵で説明するからこそ面白い」ものを意識したんですよね。普段だったら、リアリティからするとどうなんだろう、と悩んで、もう少し現実的な展開を考えるんですが、「せっかく絵を使うんだから目で楽しめるものがいいな」「単純に絵を入れただけというのでは面白くないな」と思って、絵だからこそ表現できるものを入れたかったんです。あの顛末はだからこそなんです。もし小説で書いていたら、もっと別の、「見た目の面白さ」ではなく「展開のアイディア」を重視したと思います。

── 現実と夢(異世界)が交錯するのはファン心をくすぐる仕掛けですね。

 もともとリアリティと非現実的なものが入り混じった世界が好きですし、夢と現実が交錯するような話が好きなんです。リアルとファンタジーの間のような世界ですね。
 始めは交互に寝て起きて、寝て起きてという展開を考えてたけど、パターン化しちゃうと、予定調和になって先を読まれちゃいますよね。だから、このような構成にしたことで、「これどうなるの?」と読者に期待してもらえるようになったのではないでしょうか。

── 会社員が主人公という設定は、伊坂作品では少ないですね。

 最初にこの小説を考えたとき、異物混入と謝罪会見を書いてみたいなって思ったんですよ。そこから展開を考えていったら、思いのほか現実的な事件になりまして。現実の中でのエンターテインメントを書くには苦労も工夫もありました。『SOSの猿』は株の話でシステムエンジニアだったから書けたけど……会社員のドラマでどうやったら盛り上がるんだろう、と悩んじゃって、池井戸潤さんの企業小説と、広報部門の人向けのマニュアル本を事前に読んだりして(笑)。
 製菓会社、記者会見、動物、火事……といった僕らしくないリアルな要素だけで物語を組み立てて、それを僕らしく書いたという点が、ある意味で今までの作品との相違点とも言えるのかもしれません。
 僕は変化球が好きで、スローカーブとか、落ちる球とか、消える魔球とか。でも今回は、まっすぐな球を僕らしく投げた。川口さんのイラストがあったから書ききれたということもあるかも。

── その工夫によって、漂う雰囲気に伊坂さんらしさがとても出ていますね。

 書いている間は、いつもに比べて非現実的な部分が少ないかな、と思っていたんですけど、書きあがってみると、メインの事件自体は、非現実的な部分が少ないどころかほとんどないな、と気づいて。突飛な部分がなくても成立させられたんですね。全体の流れは現実的なんだけど、細部には何となくおとぎ話感が出ている感じになったのかなあ、と思っています。

── 企業内での人間関係がとてもリアルですね。

 どうなんでしょう(笑)。現場の人が困っているのに、上の人だけは呑みにわっしょいわっしょいと帰るという図ってありそうじゃないですか。それが嫌だな、と思っていたのでそういうのを書きたくなったのかもしれません。一方で、何か大変な案件を抱えているのか、会議室からいかにも難しい顔をして出てくる人とかいますよね。そういう対比が個人的に気になって、そういうのをそのまま書いただけなんですよね。
 あと、正直なところ、テレビ番組の影響でお菓子の売り上げがあんなに変わるわけがないよな、とか、さすがに番組で流れないんじゃないかな、とか自分でも思う部分はあるんですよね。ですので、ああいったところは、フィクション用のデフォルメという感じです。
 会社が何か不祥事を起こして記者会見を開いたときのマスコミの反応だったり、それに対する世の中の風潮だったり、直接の暴力ではなく目に見えない悪意って怖いですよね。だからそれも書きたかった。まあ、せっかくフィクションなので、頑張っている人が報われてほしい、という気持ちもあったんですが。
 ちなみに、記者会見後にお客様からの電話の嵐がやってくる場面の比喩の飛行機部分とか、実はもっと凝っていたんです(笑)。かなり削っちゃいましたが、あのような場面を書くのが好きなんですよね。

── お気に入りのキャラクターはいますか?

 ハシビロコウがかわいいですよね! 川口さんが書いてくれた絵が。人間じゃないですけどね(笑)。このハシビロコウはすごく好きです。
 最初に川口さんのイラストラフを見たときはモチベーションが上がって、しばらく持ち歩いていたくらいです。絵の線が細かく描かれているんです。こんなにいっぱい描いてもらっちゃって、川口さんきっと大変だったですよね……。現実の話でありながらファンタジーっぽさが表れたのは、やっぱり川口さんの絵のおかげですね。

── ちなみに、なぜハシビロコウを登場させたんですか?

 この小説のキャラクターを考えているときにテレビで見かけたのかなあ。よく覚えていないんですけど。動かないところがいいかなって。クチバシの形や大きさとか、身体の色とか、見れば見るほど気になるところばかりですよね。
 でも調べているうちに、意外と動くなぁと思って(笑)。そのあたりも面白くて、小説に出そうと思いました。

── キャラクターの名前にこだわりなどありますか?

 名前をつけるときには、見分けやすいというか、読者が覚えやすいことは意識しているんですよね。今回だったら、主要な登場人物が3人なので、それぞれ1、2、3文字にしようと思って。岸君は、僕が応援している楽天イーグルスの岸孝之投手にちなんでいます。でも、もともと岸さんは西武のピッチャーだったから、それを使うのは西武ファンに怒られちゃうかな、と気になりつつ(笑)、一文字だから使いたいなあ、と。3文字の池野内議員は、岸がさっぱりしている分、逆に字画を多くしたかった。でもきっと選挙で闘うには不利ですよね(笑)。小沢ヒジリは、はじめは、小沢ハルクって書いていたんですけど、やっぱり楽天イーグルスの、外野手だった聖澤諒選手が引退しちゃって寂しかったので、急遽、一括変換で「ハルク」を「ヒジリ」に変更して(笑)。あ、ちなみに「欧州フジワラ」は会心の命名ですね。もっと活躍してほしかったんですけど(笑)。

── 最後に読者に一言お願いします。

 今回、絵を使った新しい仕掛けが盛り込まれていますが、小説と別物と思わず、一つの作品として楽しんでもらえたらうれしいです。物語としては、正統派のエンターテインメント。トリッキーなギミックも出てこないですし。あ、絵が入っていること自体がギミックか(笑)。
 読後感が心地いい、現実的な事件を描いた直球のエンターテインメントになりましたので、ぜひ楽しんでいただければ。

上白石萌音

女優・上白石萌音がぶっちゃけ質問! 女優・上白石萌音がぶっちゃけ質問!

伊坂さんの作品づくりに関することからプライベートまで、ファンだからこそ聞きたかった疑問の数々に一問一答形式で伊坂さんが答えます。

上白石
怒涛の伏線回収が毎回楽しみです。どの程度展開を考えてから書き始めますか?
伊坂
あまり先の先までは考えず、全体の一割くらいを思い描いたら、書きはじめちゃうことが多いです。そこまで書いたら次の展開を考える形で、七割くらい書いたところでラストシーンが思い浮かぶケースが多い気がします。
上白石
ふたりきりで語り合うとしたらどのキャラクターとがいいですか?
伊坂
あまり登場人物に思い入れがないので、「語り合いたい!」という気持ちにならないのですが(申し訳ないです!)、『夜の国のクーパー』に出てきた主人公に、あの場所で起きたことをあれこれ聞きたい気はします。
上白石
筆が止まることは? その時はどう打開しますか?
伊坂
デビューして最初の十年は、筆が止まるということもなくひたすら前に前に書き進めていけていたのですが、それ以降くらいからは、少し書いては立ち止まって、「これでいいのかなあ」「もう書きたくないなあ」と思うことが増えました。打開策としては、編集者と話し合ったり、映画を観たり、もしくは詰まっている場面を全部やめちゃったりすることが多いです。
上白石
伊坂さんの書かれる会話が大好きなので、戯曲や脚本も読んでみたいです!
伊坂
そんなふうに言ってもらえてうれしいです。ただ、僕の書く会話文は、子どもの頃に観た洋画の会話が根っこにある気がするので、文章として読む分には楽しめても、そのまま日本の役者さんが口にすると、どこか漫画的になってしまうような怖さもあります。なので、いいものが書ける自信がありません!
上白石
執筆する時のルーティンはありますか?
伊坂
コーヒーを飲むくらいですかね。
上白石
ご自身を映していると感じるキャラクターはいますか?
伊坂
『オーデュボンの祈り』の伊藤君や『アヒルと鴨のコインロッカー』の椎名、『チルドレン』の武藤君などの、傍観者的な一般の人はたいがい、自分に近いかもしれません。『クジラアタマの王様』の岸君もそうですね。「平凡な自分が、奇妙な冒険に巻き込まれたら」と考えて、大学生の時に書きはじめて、今の作風が出来上がったような気がします。
上白石
ずばり伊坂さんにとってのバイブルは?
伊坂
バイブル、と呼べるほど何度も読み返したり、指針にしたりするものはないのですが、僕の小説のスタイルは、宮部みゆきさんの短編「サボテンの花」を読んだ時の感動から生まれているので(「こういうお話を僕も書きたい!」と思いました)、強いて言えば、それかもしれません。
上白石
登場人物の名前が印象的です。名付けのこだわりはありますか?
伊坂
名前に関してはかなり気をつけているので、印象的と言われるのはありがたいです。僕自身が小説を読んでいる時に、「これ、誰だっけ?」と悩むことが多かったため(笑)、そういうストレスが減るように、なるべくその人のイメージが浮かびやすい名前を考えたくなります。「蝉」や「鯨」、「蜜柑/檸檬」などもそうですし、あとは、奇抜な名前の人ばかりが出てくると、それはそれで印象がぼやけるため、平凡な名前の人も配置することが多いです。ただ、氏名のうち、「氏」はどうにかなるのですが、「名」のほうは同じようなものしか思いつかず困ります。
上白石
タイトルはどの段階で、どうやって決めるのですか?
伊坂
タイトルはとても大事で、書きはじめる時に見つかっているのがベストです。なかなか決まらないと、あまり書く気も起きず、結局、進めることができません。すんなり決まらないと難航することが多いです。たとえば『ホワイトラビット』の時は、「動物の名前を入れたい」「ミステリーっぽいタイトルにしたい」という思いだけがあって、はじめは「ウルフ」を入れたかったんですが、どういう単語を絡めてもギャグっぽくなってしまい諦めました。『クジラアタマの王様』もずいぶん悩みまして、「漢字四文字にしたいな」と思っていて、途中で、「来夢来人(ライムライト)」というのを提案したんですが、いろんな人から、「スナックの店名しか思い浮かばないからやめたほうが……」と言われました。
上白石
伊坂さんのユーモアが好きです。お好きな芸人さんはいらっしゃいますか?
伊坂
芸人に限らず、僕にとってのヒーローはダウンタウンさんで、いろんな意味で大きな影響を受けている気がします。松本人志さんの作る映画もすごいと思っています。もちろんほかの芸人さんたちも好きなのですが、DVDが出るたびに買ってしまうのは、サンドウィッチマン、東京03、バイキングの三組です。
上白石
どんな音楽を聴かれますか? 音楽を聴きながら執筆することはありますか?
伊坂
昔ながらの、シンプルなロックバンドとかが好きなのですが、最近はうるさいものをあまり聴かなくなってきて、「年をとってきたんだな」と感じます。初稿の時(白紙に文章を書いていく時)には音楽を聴くことが多いのですが、それを推敲する時には絶対に聴きません。
上白石
仙台でいちばんお好きな場所はどこですか?
伊坂
昔、霊屋下(おたまやした)という地域に住んでいまして、そこの広瀬川沿いの河川敷はとても好きです。
上白石
いつも冷静なイメージがあります。テンションが上がるのはどんな時ですか?
伊坂
ぜんぜん冷静じゃないです。息子の部活動の応援とかしている時はテンションが高いと思います。
上白石
朝型ですか? それとも夜型ですか?
伊坂
会社員だった時と同じように、朝起きて、外に出て仕事をして、夕方には家に帰ってくるような感じです。
上白石
伊坂さんご自身が、伊坂ファンに薦める作家さんは?
伊坂
難解さに逃げることなく(つまり読みやすく)、小説としてすばらしいという意味では、佐藤正午さん、絲山秋子さんや津村記久子さんを多くの人に読んでほしい気がします。また僕のミステリー的な部分の原点は、島田荘司さんや連城三紀彦さん、そして新本格と呼ばれる作家さんたちの諸作品です。たとえば、法月綸太郎さんの『密閉教室』『誰彼』『ふたたび赤い悪夢』『一の悲劇』『二の悲劇』などは非常に興奮して読んだ思い出があります。
上白石
締め切りには強いですか?
伊坂
まったくもって弱いです。「締め切りに間に合わせないと!」という心配から、不本意なものを世に出してしまいそうな予感があるので、基本的には、締め切りのある仕事は引き受けないことにしています。
上白石
描かれる女性がみんな魅力的です。単刀直入に失礼します、伊坂さんの好きな女性のタイプは!?
伊坂
女性の登場人物を書くのは苦手なので、魅力的と言ってもらえるとほっとします。好きな女性のタイプというわけではないのですが、男性でも女性でも、他者を馬鹿にしたり、「自分さえ良ければそれでいい」と考えたりする人は苦手です。
上白石
すばらしい作品を、夢中になれる時間を、いつもありがとうございます。一冊読み終えるたびに、心の引き出しが三つ四つ増える感覚があります。どうかお身体を大切に、作品を書き続けてください。いちファンとして心待ちにしています!
伊坂
ありがとうございます。この仕事をいつまでできるのかな、新作をいつまで生み出せるのかな、と心配になることが多いのですが、もう少し頑張ろうと思います!
インタビュー全文を見る

ハシビロコウのつぶやき

人気声優と伊坂さんがコラボ!作品に登場する謎のキャラクター、ハシビロコウのリアルな姿をお楽しみください。

  • 諏訪部順一

    声優、ナレーター、ラジオパーソナリティとして数多くの作品や番組に出演するほか、自身の企画でTV番組や音楽、舞台の制作も手がけるなどマルチに活躍中。2012年度、2017年度の声優アワードで助演男優賞を、2018年度の同賞でパーソナリティ賞を受賞している。

  • 花澤香菜

    「言の葉の庭」(雪野百香里役)、「消滅都市」(ユキ役)などヒット作に多数出演。透明感のある癒し声で絶大な支持を集めている最旬の人気声優。声優として多忙を極める中、アーティストとしての音楽活動や舞台に出演、活躍の場を更に拡げている。

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