忙しい日々の暮らしのなかに、ちょっと時間のとれる日があったら、ふだんはできないひと手間をかけてワンランク上の料理に挑戦してみませんか? 料理研究家の瀬尾幸子さんがそんなときにおすすめするのが、「焙じ器」をとり入れること。
主に茶葉をいるときに使われる道具ですが、もし「洗いごま(収穫したごまを洗浄し、乾燥させたもの。生ごま、乾ごまとも)」を見つけたら、ぜひ自家製いりごまに挑戦してみてほしいと瀬尾さん。「ごまって種子だから、いる前の洗いごまは生きているんです。市販のいりごまよりも長もちするんですよ。何よりも、いりたてのごまの香りは格別。ちょっといるだけで劇的に香りが高まりますよ」。
使う分の洗いごまを焙じ器に入れ、火にかけます。焦げないように気をつけながらじっくりといるうちに、香ばしい香りが漂ってきました! ちょうどよいきつね色になったら、持ち手側の穴からごまを取り出します。「フライパンや小鍋でいってもよいけれど、そのつどいりたてを味わうにはこのサイズがちょうどいいですよ」。
いりたてのごまをすり鉢に入れて丁寧にすっていくと、堅い外皮がすりつぶされるごとにさらに香りが際立ってきます。
この焙じ器は「日本六古窯(ろっこよう)」の一つである常滑焼(とこなめやき)のもの。常滑焼といえば急須を思い浮かべる方も多いことでしょう。きっと、お茶をおいしく飲むための道具の一つとして生まれたのかもしれませんね。茶葉やごまのほか、玄米、銀杏(ぎんなん)、ナッツ類、コーヒー豆の焙煎(ばいせん)などにも使えます。どれも食卓では脇役ですが、時にはこうしてじっくりと素材に向き合うこともまた、楽しい時間となることでしょう。
撮影・邑口京一郎
いりたてのごまで、いつもの一品もぐっと味わい深く。調味料はシンプルに、素材の味わいを生かします。
古くなって風味が落ちてしまった緑茶の茶葉も、いれば香り高いほうじ茶になります。持ち手が筒状になっており、サッと中身をあけられるのが便利。余熱で焦げないように、いったらすぐに紙にあけるのがポイントです。
玄米をいると香ばしいあられのようになります。おかゆにのせ、金山寺みそを添えていただくのが瀬尾さんのお気に入り。
※「いり玄米」のつくり方はテキストでご覧いただけます。
古くから薬用とされてきたごぼう。その効能が期待されるごぼう茶が、家でもつくれます。
※「ごぼう茶」のつくり方はテキストでご覧いただけます。