じょう・もとほ=スタイリスト。ベルギーで食ともてなしを学び、雑誌や書籍で活躍する。
日々のおかずづくりで活躍する道具の一つがフライパン。焦げつきにくいよう表面加工されたものが一般的ですが、今回ご紹介するのはドイツ製の鉄のフライパンです。城さんが気に入ったポイントは、何といっても「鉄」の威力。熱の回りがよく、蓄熱性に優れているので、分厚い肉などもカリッとジューシーに焼き上がります。「鉄」ならではのおいしさが楽しめて、使い込むほどに育っていく本格派のフライパンをご紹介します。
「鉄のフライパンは重いし、手入れが大変そう」と敬遠していた城さん。そのイメージを一変させたのが、十数年前に出合ったドイツ製の鉄のフライパンでした。
「展示会のデモンストレーションで肉や野菜、パンなどが焼かれていたのですが、どれもおいしくてびっくり!鉄のものは使ったことがなかったのですが、こんなにパワーがあるのかと驚きました」と話す城さん。
鉄のフライパンを使うと、なぜ料理がおいしくなるのでしょう?
鉄は熱伝導率が高く、熱を蓄えることができるので、食材の持ち味を引き出しながらじっくりと加熱することができます。
肉の塊も温度が下がりにくく、水分をよくとばすため、表面はカリッと香ばしく、中は肉汁をたっぷりとどめてジューシーに。アスパラガスなどの野菜は歯触りよく、パンケーキやトーストはきれいな焼き色に仕上がります。
城さんが出合ったフライパンはドイツの鍛冶職人、アルバート=カール・タークが1857年に創業したターク社のもの。古くから鉄製品製造の中心地だったルール地方で、職人たちが代々技術を受け継いできました。鉄の塊を真っ赤に熱し、職人たちが一枚一枚打ち出す一体成型のフライパンは、このブランドを代表する製品。プロの料理人たちの間で絶大な人気があります。鉄の塊を真っ赤に熱し、職人たちが一枚一枚打ち出す一体成型のフライパンは、このブランドを代表する製品。プロの料理人たちの間で絶大な人気があります。
それと並んで人気があるのが、戦後に開発された手ごろな価格の機械生産のプレスパン。品質の高さはそのままに、ハンドメイド版にはない深型やハンドルを折り畳んだタイプがあり、バリエーションが豊富です。
今回ご紹介するのは、こちらのプレスパンのシリーズです。
「私のおすすめは深型でハンドルが折り畳まれたタイプ。深型が発売されたとき、これは料理の幅が広がっていいな!とうれしくなりました。深さがあると〝焼く〟以外に〝炒める〟調理ができるので、洋風に限らず、和風や中華風の料理などにも使えます。また、ハンドルが短いとオーブンに入れやすいので、直(じか)火で焼き目をつけてオーブンで仕上げる調理法にはぴったり!
ハンバーグはふっくらとジューシーに仕上がるし、ローストビーフやローストチキンなどもおいしく焼き上がります。耐熱皿がわりにしてポテトグラタンやドリアをつくったり、キッシュやパイなども。ハンドルが邪魔にならないので、そのまま食卓に出せるのもいいですね」
鉄のフライパンは使えば使うほど油がなじんで、使いやすくなります。鉄肌もつややかになり、味わい深い表情に。日々、愛着をもって長く使い込みたいフライパンといえるでしょう。
撮影・竹内章雄/構成&文・海出正子