「トンイ」を演じて成長することができた。自分を褒められるようになったのがいちばんの変化かな。
初めての挑戦となった母親役でハン・ヒョジュは新たな顔を見せた。彼女が演じたトンイは、聡明さやひたむきさに加え、母としての強さ、慈しみ深さをたたえた新しいヒロインとして、見る人の心にいつまでも残ることだろう。
父と兄が亡くなった崖の上で、断ち切れない粛宗(スクチョン)への想いを抱いて涙に暮れるトンイ。そこへ粛宗が現れる。「お前を苦しめているものを分けてはくれぬか。ただ、余のそばにいてはくれぬだろうか」。粛宗の胸に顔を埋め、泣き続けるトンイ──。一幅の山水画のように美しい第31回のこのシーンは、ドラマ後半の幕開けを切なく、印象的に彩る。だが、トンイと粛宗、ふたりの気持ちが寄り添うことで、禧嬪(ヒビン)の憎悪はトンイへと向けられ、濡れ衣を着せられ死に追いやられた剣契(コムゲ)のかしらの娘という素性がトンイの運命に影を落とすことになる。
こうして厚みを増したストーリー展開により、韓国での放送時、ドラマは後半に入っても高視聴率を維持し、全50回の予定が全60回に延長されることになった。
ハン・ヒョジュは、いっそう過密さを増す撮影スケジュールの中で、ただひたすら役を全うすることだけを考えた。
「最初はあまり気を遣っていなかったのですが、ドラマが中盤にさしかかったころから、“これはとても太刀打ちできない”と思って、スタミナがつくものを食べたり、韓方薬を飲んだりするようになりました。私が倒れるようなことがあればドラマに穴をあけてしまいます。何があっても最後まで無事に終わらせなければと考えるようになりました」
過酷な環境を、監督を筆頭とする周囲の気遣いで乗り切りながら、ハン・ヒョジュは新たな境地を開拓していく。彼女にとって新たな挑戦のひとつが、「母になること」だった。
淑媛(スグォン)となったトンイは、第1子・ヨンスを授かる。だが、剣契が姿を現したことを発端にトンイの素性が明らかになり、トンイは宮廷を追われ、ヨンスを病で失ってしまう。だが、失意の中でトンイは新しい命を宿していることに気づく。
「最初の子を失い、次に妊娠し出産するまで、私に与えられた時間は1週間しかありませんでした」
女性にとって耐え難い喪失感と、何事にも代えられない喜び。トンイが経験する目まぐるしい変化を、ハン・ヒョジュは第44回の中で一度に表現しなければならなかった。
「逆境を経験することで、トンイは人として深みを増したと思います。また、1週間の間にさまざまな感情をすべて自分のものにして演じるのは本当に大変でしたが、私もこの経験を通じて、演技に対する集中力を養うことができましたし、演技のあとにスッと肩の力を抜くことを学びました」