TOPICS Interview 渡部篤郎 映画「外事警察 その男に騙されるな」住本健司役
取材・文 上原章江 写真 疋田千里

写真 堀北真希
last updated May.15,2012.

“公安の魔物”と呼ばれた男にも、
弱さや善の部分がある。

心理的なやりとりを描いた、深い人間ドラマ

今回の映画版は、住本健司率いる外事四課が、核テロという大惨事を防ぐために奔走するストーリーです。『外事警察』で特徴的な捜査方法の一つは、捜査官が民間人の弱みを握ってスパイとして協力させること。ですから、この作品には緊迫したアクションシーンもありますが、心理的なやりとりを描いたシーンが多く、むしろ深い人間ドラマと言えるかもしれません。

僕が演じている住本は、任務遂行のためには手段を選ばない冷徹な男として描かれています。彼のように、セリフで語らない部分で人間性を表現しなければならない役柄の場合は、台本の裏側を読み取って、自分なりにキャラクターを組み立てておく必要があります。僕自身は、住本が冷徹だとは思っていません。彼にも人間的な部分があるし、何より、根底にある「犯罪を防ぎたい」という正義感が強い。ですから、画面上は極力スキがないように見せながらも、彼の弱さや善の部分も意識して演じました。

映画版も、2009年に放送されたドラマ版とほぼ同じスタッフだったので、安心して撮影にのぞめました。監督は、ドラマ版でも演出を担当された堀切園健太郎さんです。彼にとっては映画初監督作品になりますが、映画だからといって何かを変えることはなく、ドラマのときと同じように撮影が進みました。堀切園監督の特徴の一つは、ワンシーンをカット割りせずに長回しで撮ること。一度通してやることで、役者もスタッフも流れや構成がつかめ、それぞれが本番に向けて調整できるので、良かったと思います。

共演者もドラマ版と同じ顔ぶれが多く、やりやすかったですね。特に、この作品は警察組織内の男同士のやり合いも見どころの一つなんですが、住本の上司役を演じられた石橋凌さん、遠藤憲一さんとの共演はとても楽しかった。彼らが作ってくれた流れに僕が乗っかることで、僕の中に新しいものが生まれたりするんです。お二人には、役者としてもっともっと教わりたい部分があると改めて感じました。

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自分とは違う人間を理解して演じる面白さ

ドラマ版で初めて住本を演じたときは、正直、憂鬱になることがありました。大きな事件を防ぐためとはいえ、一般の人を危険な場所に送り込んだりする彼のやり方は、あまり気分の良いものではありませんからね。

でも僕は、役者は、役を引きずって憂鬱になったり、精神的に不安定になることがあってもいいと思っています。それが役者の仕事ですから、辛くて当たり前なんです。ただ、今回は核テロの大惨事を防ぐという目的に向かって話が進んでいったので、ドラマ版のときほどは憂鬱にならなかったですね。住本を演じることに慣れてきたのかもしれません。

実際の僕と住本はまったく似ていません。でも、自分と似ていないほうが気持ちを理解できることもあるので、役を組み立てやすいとも言えます。そういう意味では、役者はどんな役にも似ていないのが理想です。「あ、これ僕と似ている」という感覚を持ってしまうと、どうしても演技の邪魔をしてしまいますから。自分とは違う人間を一生懸命理解して演じる。それが面白いんですよ。

韓国ロケ1か月前から、ハングルを特訓

映画では、住本がハングルを話すシーンがけっこうあるのですが、僕はこれまでハングルを学んだ経験はまったくありませんでした。そこで韓国ロケに入る約1か月前から先生に教わって勉強を始めました。まずハングル文字を覚えてから、発音のお手本を聞いて、セリフの文字と意味を一緒に頭に入れていったんです。発音は、自分で練習した後に先生に聞いていただき、問題がある部分はその場で修正していきました。先生は役のキャラクターをとても大事にしてくれて、「住本だったら、こういう場面ではこう発音するだろう」と、役柄をふまえた指導をしてくれました。

おかげで韓国ロケの頃には、韓国の方とちょっとした会話ができるようになりましたね。キム・ガンウさんとも話したかったのですが、彼の役作りは徹底していて、住本を演じる僕と現場で言葉を交わさないようにしていたんです。彼の役どころは、日本に潜伏する工作員らしき男で、住本と敵対するというものでしたから。ただ、後でスタッフから聞いたのですが、本当は僕と話したいことがたくさんあったそうです(笑)。

韓国は映画文化が発達した国なので、俳優もスタッフもすばらしかったです。一級の娯楽作品に仕上がっていると思いますので、ぜひ映画をご覧いただけたらと思います。

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わたべ・あつろう
わたべ・あつろう
1968年東京都生まれ。92年、「橋のない川」でスクリーンデビュー。95年、「静かな生活」で第19回日本アカデミー賞優秀主演男優賞と新人賞をダブル受賞。その後数々の映画、テレビドラマ等で活躍。2006〜07年、フランス国立劇場プロデュース、全編フランス語による完全ふたり芝居「La pluie d’ete a Hiroshima」をフランス6都市で全66回公演。さらに10年には、「コトバのない冬」で映画監督デビューを果たすなど活躍の場を広げている。主な映画出演作品は「スワロウテイル」(96)、「愛する」(97)、「ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer」(00)、「狗神」「大河の一滴」(01)、「最後の恋、初めての恋」(03)、「阿修羅城の瞳」(05)、「愛のむきだし」「重力ピエロ」(09)、「岳 —ガク—」(11)など。最新作としてチャン・イーモウ監督作品「The Flowers of War」(日本公開未定)が世界公開中。現在、ドラマ「市長はムコ殿」(BS朝日 月曜22時〜)が放送中。
わたべ・あつろう
映画「外事警察 その男に騙されるな」
国際テロを未然に防ぐために組織された外事警察。ある日、朝鮮半島から濃縮ウランが流出したという情報が入る。“公安の魔物”と畏怖される住本ほか外事四課は、日本に潜伏する工作員らしき男に目をつけ、その妻を〈協力者=スパイ〉に取り込むことを決める。一方、韓国諜報機関NISも日本に送り込んだ潜入捜査官に極秘指令を出し、外事警察、NIS、テロリスト、協力者、それぞれの思惑による騙し合いが始まる。住本は核テロを阻止するために、想像を絶する最終手段に出るが……。

外事警察 CODE:ジャスミン

すべての始まりは、外事警察の内部資料流出事件で明かされた、〈協力者〉である女の存在だった。女の存在を隠蔽しようとする日本の外事警察とその女を密かに追う韓国NIS、FBIの捜査官。数奇な運命の女を巡る、各国の激しい情報戦の先に見え隠れするのは迫り来る核テロの現実的な脅威だった。陰謀、罠、裏切りが渦巻き、圧倒的リアリズムで描写する緊迫のサスペンス諜報小説。映画「外事警察」原案本!
麻生幾
四六判上製・352ページ
表紙画像 外事警察 CODE:ジャスミン

外事警察

日本でテロリストと闘うのは「外事警察」(ソトゴト)と呼ばれる者たちである。そのすべてが秘匿作業で、決して姿を公に晒すことなく、極限にまで目立たないことを追求して街に溶け込み、最高レベルの秘匿作業を行っている。彼らの活躍から、国家の危機管理の有り様を問う、書き下ろし長編小説。NHK土曜ドラマ「外事警察」原案本!
麻生幾
四六判上製・440ページ
表紙画像 外事警察

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