「王女の男」の重要な要素、スンユとセリョンのラブロマンスは徹底的にこだわって演じた。
“完朝男(ワンチョナム=完璧な朝鮮男子)”と復讐の鬼“ダーク・スンユ”。主人公スンユの、まったく異なるふたつの顔を見事に演じ分け、見る者を熱狂させたパク・シフ。彼は、どんな思いで役に向き合っていたのだろうか。
2011年12月、韓国KBS放送が主催する演技大賞の壇上に上ったパク・シフは、感激に震えていた。キャリア初の最優秀演技賞受賞——。時折声を詰まらせながら受賞の喜びを語ったパク・シフは、自分に続いてセリョン役のムン・チェウォンが女性部門の最優秀演技賞に選ばれると、満面の笑みを浮かべ彼女を胸に迎え入れた。自分のことのように喜ぶその様子から、ふたりがともに過ごした時間の濃さが伝わってくる。
話は、その7か月前にさかのぼる。7月から放送予定の「王女の男」に、パク・シフがキャスティングされたのは、5月後半のことだった。
「実を言うと、オファーをいただいた時点では、お受けするつもりはなかったんです。時代劇の大変さは、並大抵のものではありませんから。ところが、ふとシノプシス(あらすじ)を手にとって読んでみると、ストーリーの面白さに一気に引き込まれてしまいました。時代劇でありながら、若者たちのラブストーリーが盛り込まれているところ。そして、首陽大君(スヤンテグン)とキム・ジョンソという歴史上名高いライバルの対決。それを演じるふたりのベテラン俳優の存在も、出演を決意した理由です」
パク・シフは、スンユのキャラクターに強く惹かれた。多くのドラマに出演していると、演じる役柄のイメージが固定化してしまうことがあるが、スンユは、「これまで演じたことのない要素をたくさん持ち、途中でキャラクターが大きく変化する人物」で、自分にとって新しい挑戦になるだろうと期待を寄せた。
クランクインまでほとんど時間はなかったが、殺陣(たて)やアクションシーンには、普段から運動を欠かさない鍛えられた体と、かつて出演した時代劇「イルジメ[一枝梅]」での経験が役立った。乗馬は以前から趣味で続けており、調教師からお墨付きをもらうほどの腕前。普通の俳優なら相当苦労したであろうアクションも、難なくこなした。
「スンユを演じるうえで頭を悩ませたのは、むしろ衣裳や髪型といった見た目をどうつくり込むかという点です。これまでになかったキャラクターになりきるためには、そこがいちばん重要だと思っていました」
スンユのビジュアルは評判を呼び、インターネット上でも話題になった。マンガの登場人物のようだという声も多く寄せられたというが、「まさにそれが目指していたところ」だと、パク・シフは言う。
「名門の御曹司だった前半で着ていた、色鮮やかな韓服(ハンボク)も評判がよかったのですが、個人的には、後半で“ダーク・スンユ”になってからの黒ずくめの装束が気に入っていました」
色白の端正な顔立ちと均整のとれた長身で、パク・シフはどちらの衣裳もさらりと着こなし、スンユのふたつの顔を魅力的に印象づけた。