TOPICS Interview 富樫倫太郎
新刊『信長の二十四時間』を語る

写真 富樫倫太郎
last updated Mar.1,2013.

「NHK出版 WEBマガジン」で好評だった同名連載「信長の二十四時間」が、待望の単行本化。単行本の発売を記念して、著者の富樫倫太郎さんに、物語の誕生の経緯や魅力についてうかがいました。

——日本史上最大のヒーローで、もっとも人気の高い人物とされる織田信長ですが、以前から関心をお持ちだったのですか?

信長はもちろん魅力的な人物だと思いますが、この作品の発想の元となったのは、アメリカの人気ドラマ『24 —TWENTY FOUR—』なんです。あのスピード感あふれる展開、先の読めないドキドキ感などを日本の歴史に当てはめて、迫力ある作品が描けないか。そう思っていたところ、本能寺の変に行き当たったわけです。
 本能寺の変については、ご存じのように「黒幕説」が囁かれたり、未解決の謎が残されています。天正十年六月二日の未明、光秀は一万を超える軍勢を率いて京都を目指しますが、なぜか本能寺襲撃まで大きな騒ぎにはなっていない。それは、光秀が京に向かったのは信長の命令だったからではないか。そこが、信長暗殺をめぐるひとつのポイントになると考えたわけです。

——当時の信長は、天下統一を目前に控えた絶頂期でした。しかし、朝廷や足利義昭など、信長と対立する要因があったことも指摘されています。

信長は天皇に退位を迫り、脅しともとれる行動もとっています。朝廷からみれば、信長の存在は非常にやっかいなものだったはず。また家臣たちが信長を激しく恐れたのは、彼が苛烈な独裁者だったからでしょう。しかし、僕はそこからもう一歩踏み込んで、信長が天下統一後の国家構想をどのように描いていたかを考えました。歴史上、新たな政権・王朝を作り上げた創業者が、のちに覇業を支えた功臣の反乱で破滅に追い込まれるという例は少なくない。前漢の初代皇帝となった劉邦は、こうした事態を招くことを恐れて韓信や彭越といった創業期の忠臣を殺害し、結果として漢帝国は数百年も続きました。頭脳明晰な信長ならば、先例に学ぶのが当然ではないか。つまり、自らの天下を確固たるものとするため、家臣を含むすべての大名の権力を根こそぎ奪ってしまうような、革命的な社会変革を断行しようとしていた。そう考えたわけです。

——その変革が実現すると、誰もが既得権益を失ってしまう。それが、信長暗殺の動機となったと……。

この作品では、登場人物の多くに信長暗殺の動機があることになります。そのなかで、誰が実際に信長を殺す決断をしたのか、そして誰が本能寺を襲撃する実行犯となるのか。その展開を『24 —TWENTY FOUR—』ばりのスピード感で描きたかった。もちろん、二十四時間という短いスパンで信長暗殺にいたる経緯をすべて盛り込むのは不可能なので、第一部では本能寺の変に至る直近の状況を、第二部では本能寺の変前日の緊迫した展開を描き、最後の第三部に六月二日当日の出来事と後日譚を盛り込むというかたちになりました。物語の重要な役回りを演じるのは、天正伊賀の乱の恨みを抱く伊賀忍者たちなのですが、彼らがどのような策略・手段を用いて、信長の「暗殺候補者」の間をつないでゆくか。そのあたりも見所のひとつでしょう。本能寺の変は歴史上の事実ですから、すでに結果は見えているように思われる読者も多いと思いますが、おそらく誰も予想していない展開と結末を用意しています。ぜひ、その「意外性」も楽しんでいただきたいですね。

とがし りんたろう
とがし りんたろう
1961年北海道生まれ、北海道大学卒業。1998年、第4回歴史群像大賞を受賞した『修羅の跫』(後に『地獄の佳き日』と改題)でデビュー。著作に『雄呂血』『女郎蜘蛛』『MUSASHI!』『陰陽寮』『妖説源氏物語』『蟻地獄』『闇の獄』『箱館売ります』『早雲の軍配者』『信玄の軍配者』『謙信の軍配者』などがある。『早雲の軍配者』が第32回吉川英治文学新人賞の候補となる。

信長の二十四時間

 
富樫倫太郎 著
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