朝鮮王朝時代に実在した、獣医から王の主治医となった人物を描く作品。その中でチョ・スンウの心を捉えたキーワードは“動物”だった。自宅では猫4匹、子犬2匹と暮らす無類の動物好き。「時代劇だからといって古めかしい演技はしたくない」と考えた彼が、ペク・クァンヒョンの人物像を構築する際に最も気を配ったのは、動物と触れ合う場面での自然なふるまいだ。
「馬を洗ったり、毛を櫛(くし)ですいて整えたり、おやつをあげたり……と、撮影に入る2か月以上前から馬と親しくなる時間をつくりました。“ヨンダル”の役で出てくる馬は、演技上手ではありますが、見知らぬ人にはそう簡単になつかない馬だったんですよ。僕の手にニンジンや角砂糖が載っていなければこっちを見てもくれない(笑)。だから手におやつの匂いをつけて撮影をしたこともありました。でもその馬と再会する場面(第17回)で、僕が泣きながら喜ぶ演技をしたときには、きっと人間の感情を受け止めたのでしょうね。目を合わせてくれて、じっとおとなしく僕に抱かれていましたよ」
イ・ビョンフン監督の撮影現場はとにかくタフだ、と仕事に関わったほとんどのキャスト、スタッフが口にする。チョ・スンウもドラマ初挑戦にして伝説の現場を経験し、全体を統率する監督のカリスマ性と、そのエネルギーに驚かされた。
「徹夜も多いのに、現場にいる誰よりも生き生きしているのが監督なんです。“納得のいかないシナリオで撮っても意味がない”という監督の考えのもとに、僕たち100人以上のスタッフと俳優はひたすら台本が仕上がるのを待つんですが、そうすると撮影時間は減っていく。それでも、撮るべきものを明らかにして俳優たちを説得し、皆を意気投合させ、パワフルに撮影を進めていく。40年のキャリアで培ったそのリーダーシップは、間違いなく韓国ナンバーワンでしょう。ドラマを心底愛しているんだな、と思います。撮影がうまくいって足を踏み鳴らして喜ぶ姿は、失礼かもしれませんが、本当に天真爛漫だな……と(笑)」
監督の熱意を語るうちに、チョ・スンウはあるエピソードを思い出して笑顔をさらに輝かせた。
「時間がない中で、セリフを全部覚えきれないときがあるんですね。傷んだアワビと酢が反応すると猛毒になるというセリフで(第10回)、どうしても“アワビ”と“酢”が思い出せなかったんです。すると、僕の視界の中で何かが行ったり来たりしている。監督が一生懸命、小道具のアワビの殻と酢の瓶を持って、『アワビ! 酢!』と言わんばかりに両手を交互に突き出していたんですよ。大笑いして結局そのシーンはNGを出してしまいました」
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