私はめ以子のような大食漢ではありませんが、食いしん坊のところは似ています。食べたことのないものを見ると口に入れてみたくなって、撮影現場では、自分が食べるシーンではなくてもドラマに出てくる料理は必ず味見をさせていただきます。おかげで、収録が始まってからほとんど食堂には行っていないんです。
ドラマでは幅広い年代を演じることになりますが、最初の5週は東京編。め以子は17歳の女学生なので、元気いっぱいにはっちゃけて、とにかく楽しく演じています。これから先、め以子がつらい思いをしたり悲しみを感じたりする場面では、この東京編が基盤となって、あのときはあんなに楽しかったのにと、よりめ以子の感情に近づけるのではないかと思います。
卯野家の皆さんとのシーンは、本当にあったかい家庭の中にいるような雰囲気です。休憩時間におもちゃでいたずらをして、父親役の原田泰造さんに「め以子!」なんて叱られたり(笑)。
悠太郎役の東出昌大さんとは、休憩中もよくセリフの読み合わせをしています。東出さんは慣れない大阪ことばでのお芝居なので、自分のセリフを言い始めると呪文のように止まらなくなることがあって。そんなときは、ふたりでしりとりや雑談をしてリラックスしています。
和枝役のキムラ緑子さんとはこれまでに何度かご一緒していますが、お芝居で直接ぶつかり合うのは初めて。今回はがっつりといじめられるので、とても楽しみです。
収録に先だって、料理指導を受けました。この時代は今のような文化包丁はなくて、片刃の和包丁を使っていたそうです。私はステンレス製の両刃の包丁しか持っていなかったので、練習用に包丁をあつらえて、自分の名前を彫っていただきました。いい道具を持つと料理が上手になった気がするし、魚もびっくりするくらいきれいにおろせるんです。もともとお料理は好きでしたが、魚をさばく機会が増えたし、もっと知りたいと思うようになりました。
料理指導では、東京と大阪の食文化の違いや、食材の名前の違いなども学びました。それがすごく面白いし新鮮で。大阪に嫁いだめ以子が出合う驚きは、そのまま私の驚きです。
脚本は読み出したら止まらない小説のようです。脚本家の森下佳子さんの観察眼が鋭くて、一度一緒にお食事をしただけで、相手の本質を感じ取って台本にいかしてくださるんです。だからでしょうか、台本を読むとめ以子の感情がすっと入ってくるし、演じていても無理がなく、しっくりときます。
私も、ひとつひとつのセリフが自分の中から出てきたかのように演じたいなと思って、ノートにセリフを書き写し、言葉と触れ合う時間をできるだけ多く作るようにしています。
この物語で、め以子は真心を込めた料理で、西門家の人たちの心を解きほぐしていきます。そんなめ以子の生き方を通して、食事の時間を誰かと共有したり、大事な人のために料理をすることのすばらしさを、視聴者の皆さんにお伝えできたらうれしいです。