偶然にも、私も望叶ちゃんも左利きで、ペンや箸の持ち方を右利きに直す中で、似た仕草をすることがあったそうです。それはうれしい共通点でした。何より、祖父役の石橋蓮司さん、父親役の伊原剛志さん、母親役の室井滋さんが、子役の方たちが相手のときと少しも変わらない態度でいてくださるので、私も幼い頃からずっと一緒に囲炉裏を囲んできたような感覚になれるんです。役について、「この人ならこういう行動をとるはず」などとリアリティーを追求する皆さんの姿勢から学ぶことも多く、同じ現場にいられる幸せをかみしめています。
家族のシーンでは、15歳になったはなの5年ぶりの帰郷が印象的でした。女学校でトップの成績をおさめ、エリート学生との淡い初恋さえ経験したはな。自分の恵まれた境遇を思い知らされ、改めて貧困に耐える家族を誇りに思う気持ちや、自分がみんなの希望であることを確認するんです。10代半ばでそうしたことを意識する時代があったなんて。はなの覚悟が伝わるといいなと思います。
女学校のシーンの収録は、まさに学園生活を楽しむように進んでいます。先生役のともさかりえさん、寮母役の浅田美代子さん、同級生役の高梨臨さんも、役の人物にしか見えないほどで、芝居が本当に楽しい。近藤春菜ちゃんとはプライベートでも仲がいいのですが、そこにいるだけでおかしみを感じる存在感はすごいなと思います。
はなの無二の親友となるのが、仲間由紀恵さん演じる葉山蓮子です。育った環境が違いすぎて、最初はわかり合えないふたりですが、はなは蓮子の気高さにあこがれ、蓮子ははなの温かな家族にあこがれ、ある種、恋愛にも似た友情を育んでいきます。上品で、でもちょっと抜けたひょうきんなところもあって、仲間さん自身にも重なる〝蓮子っぷり〟は最高で、必見です。
幼なじみの木場朝市や、アルバイト先の出版社で出会う村岡英治との関係も楽しく見ていただけると思います。そういえば、英治役の鈴木亮平さんは英語が堪能だと聞いていたので、鈴木さんの前で英語を話すシーンは、なんともやりにくかった(笑)。今回は山梨の方言に加え、英語のセリフもたくさんあるんです
物語では、山梨に帰ったはなの教員生活も描かれます。貧しい自分が学問を修めたこと、蓮子と友情を分かち合えたことを糧か てに、子どもたちに勉強の面白さや平等の大切さを教えていくのだと思います。
収録の現場は、スタッフの皆さんも共演者の方々も細部まで神経を配り、自分がかかわらないシーンにも思いをはせ、「いい作品を作りたい」という熱意に満ちています。朝ドラのヒロインオーディションを受けたことは一度もなく、主演することになるとは思っていませんでしたが、貴重な機会をいただいたと日々感じています。村岡花子さんの翻訳作品が後世に受け継がれているように、明治、大正、昭和の時代を生きた人々の暮らしや思いを、今の時代、次の時代につなげられる作品になったらいいなと思います。