取材時に感じたのが、この問題に関して最も悩み多い年齢が小学校高学年ということです。年齢的にも、もうちょっと上にいくと思春期の問題が重なってきて、「友達と同じことで悩めて安心する」といった変化もあるようですし、逆にもっと下だと、自分の何が問題なのかわからない。それから、特別支援学級がある中学校を選ぶかどうかが分かれ道になる子がいる。11~12歳の子に進路を迫るのは酷だと思うのですが、現実としてある以上、この問題を避けては通れないかなと。
この話の中では兄も弟もアンビバレンツな状況で、自分のポジションを決めあぐねています。ユノは主体的に生きたいのに、周囲から「おまえはこうだ」と言われることで自分がわからなくなっていく。兄の昭彦は、彼なりの信念を持って社会に出ていくはずが、弟の問題によって、自分に何ができるかを自問自答し、葛藤し続ける。
昭彦の葛藤は、「人と向き合うか、問題と向き合うか」というふうにも言い換えられます。こうした悩みは難読症に限ったことではなく、普遍的な話を描いたつもりです。
小説の大きな役割は、考え方・視点を提示することで、「答え」を示すものではないと思います。『暗号のポラリス』を読んでいただいて、まずは単純に楽しんでいただければ。同時に、難読症や学習障害などについて知るきっかけになればありがたいし、何か考えるきっかけになればもっと嬉しいです。
小説は、じっくり考えるための栄養みたいなもの。絶えず考えていかないと、短い言葉やわかりやすい言葉だけが一人歩きして、右か左か、白か黒かという対立軸に取り込まれてしまいます。
小説や作品を離れた日常生活のなかで、ふと「これはもしかして、あの小説に書いてあったことに近いのかな」という発見がみなさんにあったらいいな、というのが願いです。