人気・実力を兼ね備えた作家たちが贈るWeb限定連載や、豪華インタビューなど。
NHK出版が刊行する 文芸書・ドラマ関連書籍  をご紹介するサイトです。

インタビュー

『闘鬼 斎藤一』(吉川永青・著)
第4回野村胡堂文学賞を受賞

最終更新日 2016.12.1

「銭形平次」で知られる、昭和を代表する作家である野村胡堂を顕彰する「第4回野村胡堂文学賞」を『闘鬼 斎藤一』が受賞しました。受賞を記念して、著者の吉川永青先生に取材しました。

――野村胡堂文学賞を受賞されての感想は?

 作品を刊行後1年を過ぎていたので、『闘鬼 斎藤一』が選考に残ったとうかがい少し驚きました。でも、自分の書いた小説が、目の肥えた方々に評価されたのは素直にうれしいです。「銭形平次」の名前を知らないという日本人は珍しいと思います。その作者の名前を冠した文学賞をいただいたことは大変光栄です。平次も懸命に生きる市井の人々に寄り添いエールを送る存在でしたが、わたしが『闘鬼』で描こうとしたのもひとりの青年が脱皮と成長を経る物語なので、通底するものを感じました。
 授賞式に先だって神田明神の本堂で正式参拝した折は、身の引き締まる思いでした。受賞式も手作り感あふれるアットホームなもので、参加者とじっくりお話しもできました。

――なぜ、斎藤一を主人公に描こうと思ったのですか?

 わたしのデビュー作である『擬史三国志』三部作を書くにあたり、三作に共通するテーマとして「人の心のかたちとその変化」を芯に描こうと思いました。「蟻の一穴から天下も破れる」のことわざどおり、強固な忠誠心も裏返ることがある。心というのは面白い題材です。今回の『闘鬼』では、斎藤一という人物を闘争心を軸に描こうと思いました。闘いが変化してゆく中で、闘争心のかたまりのような青年斎藤一が経験したその変化を描こうと思いました。

――江戸から維新にかけて闘うことの本質が変化していったということでしょうか?

 斎藤の知っている闘いと戦争は本質的に違うものだと思うのです。剣を相手の身体に叩き込み肉を斬る感触があるものから、遠くの敵を引き金を引いて殺傷する。個人と個人の闘いから、個人とは関係なく勝敗が決する戦争になっていく。
 こういう時代のただなかで、親友・沖田総士が病いから亡くなってしまう。そのことから、剣の技を磨き、人を斬ることだけが闘争でなく、人として生きることそのものが闘争なのだと思うようになっていったのではないか。
 斎藤は、会津戦争後、敵であった政府側の警察官となって生きていきます。そこには我慢や辛抱もあったはずで、「生き続ける」という「もうひとつの闘争」にシフトしていった心の変化を描きたかったのです。これは現代人も同じで、仕事も然り、毎日を生きていくという闘いは尊い人間としての営みなのだということを込めたかったのです。

――今後、書いてみたい作品は?

 ひとつは織田信長をいままでとはまったく違う視点で書いてみたい。最初は部下にも思いやりを示すいい領主なのですが、あることをきっかけに「乱世の魔王」として覚醒する。その反転する瞬間を描きたいと思っています。
 もうひとつは、「聊斎志異」を現代的な視点から描いてみたい。いくつかのエピソードをつないで、人間の悲喜こもごもを浮き上がらせるようなオムニバスです。また、過去と現生が交錯しながら物語が同時に進んでいくものなど、いままでの時代小説の枠を壊して、新たな読者を引き込んでゆくような作品に挑戦してみたいと思っています。
 どうぞ、ご期待ください。

プロフィール

吉川永青(よしかわ・ながはる)

1968年東京都生まれ。横浜国立大学経営学部卒。2010年、『戯史三國志 我が糸は誰を操る』(講談社)で、第5回小説現代新人賞奨励賞を受賞し、デビュー。