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インタビュー

柴咲コウ

大河ドラマ「おんな城主 直虎」
井伊直虎(次郎法師)役

最終更新日 2017.01.10

バランス感覚のある直虎の決断に城主の器を感じます

 直虎役のお話を頂いたとき、あの戦国時代に女性で城主を務めた人がいたという事実に、まず驚きました。台本を読んだら、何度も読み返したくなるおもしろさ。感情を揺さぶられ、想像と期待がワッと膨らみました。

 直虎は、幼い頃は特に、直感のおもむくまま猪突猛進! という感じです。それが、年を重ね、周囲の忠告に耳を傾けなければ乗り切れない状況に出会い、さまざまな経験を重ねる中で、少しずつ成長していく。もちろん、生まれつきの性格は簡単には変わらないので、その大胆さや、喜怒哀楽を隠せない一面は、大人になっても顔をのぞかせると思います。そこは、おとわ役の新井美羽ちゃんの生き生きとしたお芝居を引き継いでいきたいですね。

 幼いおとわに影響を与えたのは、第一に両親だったと思います。支えたくなるような優しい父・直盛と、おとわと一卵性母娘のような母・千賀。特に千賀は、当主や重臣が次々と亡くなる中、陰で井伊家を支えていく人なので、母娘のやり取りを大事に演じていきたいと思います。

 今回は、尼僧の役ということで、お経を唱えるシーンもあるんです。車を運転するときも聞きながら練習していたのですが、ヒーリング効果が絶大! 窓を開けて街中を癒やしたくなりました(笑)。しかも「鼻歌のように経を唱える」とト書きにあるように、直虎はまるで歌うようにお経を唱えるんです。おかげで楽しみながら、自然に覚えることができました。

 直虎を見守る南渓(なんけい)和尚も、彼女の人生で欠かせない人物です。南渓和尚はただの酒飲み坊主に見えて、ここぞというときに直虎に重要な助言を与えます。ただ、それはあくまでもきっかけで、最終的に直虎は常にみずから答えを出します。出家も、直親との結婚のことも、そして、城主になるということも……。

 直親(なおちか)との結婚を断念したのは、「女の幸せ」と「当主の娘としての役目」を天秤にかけた結果だと思います。自分が死んだと偽って、陰で直親と夫婦になれば、子をなし、女としての幸せが待っているかもしれない。でも、そうしたい直親に、直虎はノーという結論を出す。その場の感情で行動するのではなく、井伊家と井伊谷(いいのや)の領民を守るために自分がどうすべきか、ちゃんとバランス感覚を持って決断するんです。そこに直虎の城主たりうる器を感じます。南渓和尚も、「この娘はただ者ではない」と確信し、井伊家の未来を託したのではないでしょうか。

 直虎が、困っている人を人知れず助ける〝竜宮小僧〟の伝説に親しみ、自分もそうあらねばと日々を過ごしたことも、彼女を成長させた気がします。また、直虎自身、目に見えない何かに助けてもらっているという謙虚さを持っていたのではないでしょうか。だからこそ、井伊谷の人々や美しい自然を守りたいと、切に願ったのだと思います。

自分の内面をさらけ出すことを恐れずに演じていきたい

 戦国時代に絶大な勢力を誇れた人は、ほんのひと握り。だから今でも、信長や家康は憧れの対象になっているんでしょうね。その一方で、現代を生きる人々にこそ、井伊家が抱える小さな組織ゆえの悩みや、強大な力のはざまで生き抜くつらさに共感していただける気がします。

 直虎が城主になる決断をしたのは、亡き直親の魂を引き継ぎ、その忘れ形見である虎松を支えるため。「直虎」という名を宣言したことが、その意気込みを象徴していますよね。城主に就任するのは30代になってからですが、寺での生活が長かっただけに、俗世間に疎い部分もあったでしょう。でも、この先それを非難されても、きっと直虎は依怙地にならず、周囲の意見を柔軟に取り入れていくはず。彼女の根底には「国というのは、まず民が潤わねばならない」という思いがある。前半を一話一話演じていて、そんな思いがしています。

 戦乱の世に、女性が家臣や領民を率いるというのは常識外で、先々、直虎が家臣から「おなごに何ができる」と言われるシーンも出てきます。そうした意識が今の日本ですっかり消えたかといえば、ほかの先進諸国に比べるとそうでもないのかな、という気もします。もちろん、それが女性の反骨精神を刺激することもあるのですが。私自身も、自分ができること、周囲から望まれること、これからやりたいことに、ちょっとずつ矛盾を抱えることもあります。でも、それを周囲や社会のせいにする前に、自分の課題として向き合い、矛盾をクリアしていきたいと、いつも思っています。時代や境遇は違うけれど、直虎も同じような葛藤を抱え、乗り越えようとしていたんじゃないかな。このドラマがそういった意味で、男性にも女性にも一つの問いかけになればいいなと思います。

 収録は順調に進んでいます! 土にまみれて農作業したり、滝に打たれたりと、衣装がぐちゃぐちゃになるシーンもありますが、私には合っていますね(笑)。浜松ロケでは、地元の方々が温かく迎えてくださり、金色の稲穂が輝く美しい光景の中でお芝居することができました。直虎が修行した龍潭寺にも赴き、彼女のお墓に「心して演じます」と手を合わせました。

 私はもともとあまり前に出る性格ではないんです。でも、大河ドラマの主役という大きな機会を頂いたのですから、自分の内面をさらけ出すことを恐れずに、この役に向き合いたい。信念を曲げず、困難を乗り越えていく直虎の生きざまを、誠心誠意演じていきたいです。

(『NHK大河ドラマ・ストーリー おんな城主 直虎 前編』より再録)

プロフィール

柴咲コウ(しばさき こう)

1981年生まれ、東京都出身。主な出演作に、ドラマ「GOOD LUCK!!」「Dr.コトー診療所」「オレンジデイズ」「ガリレオ」「わが家の歴史」「信長協奏曲」「○○妻」「氷の轍」、映画「GO」「世界の中心で、愛をさけぶ」「メゾン・ド・ヒミコ」「どろろ」「舞妓Haaaan!!!」「食堂かたつむり」「青天の霹靂」など。「RUI」としてリリースした「月のしずく」が大ヒットするなど、歌手としても活躍。今作がNHKドラマ初出演となる。