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特別寄稿

12歳からはじめよう
学びのカタチ
優くん式「成績アップ」5つの秘密

佐藤 優(さとう・まさる 文)
+西原理恵子(さいばら・りえこ 絵)

最終更新日 2019.10.01

暗記するにはコツがある

 中学の勉強では暗記することがすごく増える。でも、やみくもに暗記したころで知識は身にはつかない。努力してもムダってことになってしまうんだ。
 暗記することがうまくできないと、勉強ぎらいになってしまう。世の中には「勉強ぎらい」の人がおおぜいいる。中学生だけじゃない。おとなにも勉強ぎらいがたくさんいるよ。
 そういう人たちの共通点は「勉強の方法がわからない」ということ。どうやって勉強すればいいかがわからないと、勉強は教科書やノートを暗記するだけのつまらない苦行〈くぎょう〉になってしまう。それじゃ、勉強がきらいになるのも当然だ。
 もちろん、勉強することのなかには、苦労しておぼえなければいけないこともけっこうある。でも、暗記にもコツや方法がある。コツさえ身につければ、スイスイ暗記できて、しかも知識がバッチリ身につくはずだ。


丸暗記には限界あり

 中学までの勉強は、暗記だけで乗りきれてしまう。でも、そういう勉強をしていると、高校では通用しなくなると思ってほしい。
 高校の勉強では、丸暗記は通用しない。理解しながらでないと、おぼえることはできないからだ。
 ときどき、いまはインターネットで検索すれば、すぐに調べられるのだから、暗記なんて必要ないという人もいる。こういうことを言うのは、インターネットやコンピュータのことがちっともわかっていない証拠〈しょうこ〉だ。
 コンピュータが得意なのは、意味を理解せず丸暗記することだ。もちろんコンピュータの場合は、人間とちがって、人間じゃ太刀打〈たちう〉ちできないぐらい丸暗記ができる。辞書一冊をおぼえるぐらい朝飯前だろう。
 でも、人間のように意味を理解して暗記していないから、自分で考えることはできないんだ。
 逆に言えば、丸暗記で勝負するかぎり、人工知能のようなコンピュータに勝つことはできない。意味を理解し、自分で考える。そこに人間の強みがあるんだね。
 でも、ものごとを筋道たてて考えるためには、最低限、暗記しなければいけないことがある。その最たるものはことばだ。ことばをおぼえなければ、ぼくたちは考えることなんてできやしないんだから。
 その意味で、中学校や高校で習うことは、考えるためにおぼえなければいけないことだ。なにもかもコンピュータで調べていては、調べるだけで時間が尽きてしまって、考えることができなくなってしまう。考える力の土台の部分は、どうしても暗記することが必要なんだ。


脳がやわらかいうちに、メモリーの容量を大きくしよう

 丸暗記は通用しないと言ったけど、それはきみたちが高校生になってからのこと。それに、「理解→暗記」というのはなかなかハードルが高いだろう。
 きみたちは、まずは教科書の内容をすこしずつ、着実に暗記することを目標にしよう。中学生のときに土台をしっかりかためておくことだ。
 さいわい、12歳になったきみたちのアタマは、とってもやわらかくて、いろんな知識をスイスイ吸収することができる。そんなときにこそ、脳のメモリーの容量を大きくしておけば、それは一生モノになるよ。スマホとかクラウドとか、脳の外に知識を蓄〈たくわ〉えておけば、記憶する必要はないなんて、おとなたちはカッコいいことを言うだろう。でも、それって、彼らのアタマがもうカッチンカッチンになっちゃっているからなんだ。「外づけ」の器械〈きかい〉に頼らないともうお手あげってこと。
 きみたちは、まずはせっせと暗記すること。そのためのとっておきの方法を教えよう。


まずは音読からスタート

 最初にすすめたいのは、教科書の音読をくりかえすこと。
 音読は黙読〈もくどく〉(声に出さずに読むこと)にくらべて理解度が高くなり、読んだことがしっかり記憶にのこりやすい。黙読ではわからないことが、声に出して読むと理解できるんだ。
 でも一度読んだだけでは、時間がたつと忘れてしまう。だからあまり時間をおかずに、もう一度音読をくりかえす。1冊の教科書について、3回音読すれば、自然と教科書の内容が頭に入ってくるはずだ。
 このとき、教科書1ページをどのぐらいで音読できるか、時間を測ってみるといいよ。きみが1ページを読むのに3分かかるとしよう。だとしたら、教科書が250ページならば、およそ750分(12時間30分)で音読できることになる。この時間がわかれば、勉強の計画もたてやすいだろう。
 また、音読しているときに意味のわからない言葉があったときは、音読を終えたあとで、辞書を引くようにしよう。辞書の使いかたについては、本のほうでくわしく解説しているので、そちらを読んでほしい。


スイスイ暗記の2段階作戦

 3回も音読するなんてめんどうくさい、と思うかもしれないね。そんなきみにすすめたいのが、ディクテーションだ。教科書を音読して、それを録音する。録音した内容を聞きながら、それをノートに書きとっていくんだ。順番は、こうだ。

 「声に出して読む」→「聞きとって理解する」→「自分の手で書きとめる」

 口と耳と手を使うことで、記憶はしっかり定着、バッチリ理解できるようになっているはずだ。
 人間って、目で見るだけじゃなくて、口に出したり、耳で聞いたり、手を使ったり、からだ全体を使ったことはしっかりアタマにのこるようにできているんだ。このことを忘れないでほしい。
 でも、教科書のすべてをディクテーションしていたら、たいへんな時間がかかってしまうだろう。ディクテーションは、ほんとうに重要なところ、ここだけは暗記しないとアウト、というところにしぼって、それ以外のところは音読作戦で切りぬける。この2段階で行ってみよう。

 ステップ1 教科書を声に出して読む
 ステップ2 とくに重要なところは音読を録音、それを聞きながらノートに書きとっていく


スパイ式記憶術は「見ておぼえる」

 いま話した方法は、口や耳や手を使って暗記する方法だった。もちろん、見ておぼえること、つまり「視覚」だって重要だよ。
 優くんは外務省にいたとき、ソ連(現在のロシア)で情報収集の仕事をしていた。この仕事を外務省では「インテリジェンス」といっていた。諜報〈ちょうほう〉活動ともいうんだけど、映画に出てくるスパイみたいでカッコいいだろう。
 でも、じっさいは新聞を読んだり、外国のさまざまな偉い人たちからいろんな情報を聞きだしたりして、それを取捨選択〈しゅしゃせんたく〉して、日本にとって役にたつ情報へとまとめあげること。どちらかというと、地味〈じみ〉で根気〈こんき〉のいる仕事だったんだ。
 優くんがこの仕事をやっていたとき、ソ連という国はさまざまな矛盾〈むじゅん〉に直面して、まさに崩壊〈ほうかい〉しようとするところだった。そこで毎日、官僚組織〈かんりょうそしき〉のトップにいる偉い人たちと会って、彼らからソ連がいまどんな状況にあるのか、情報を仕入れようとしたんだ。
 「これはおまえにだけこっそり話す重要な情報だ。マサルだからこそ話すんだ。だから、けっして録音するな。メモもとるな」
 さあ、優くんはこまった。日本にきちんとした情報を伝えるためには、正確に暗記しなければいけない。
 そんなときには、耳で聞くだけではなくて、映像として記憶するようにしたんだ。つまり、相手がどんなスーツを着て、どんな色のネクタイをしめて、どんな身ぶり手ぶりをまじえて話したか、そのときテーブルの上に何がのっていたか……そのぜんたいを「見ておぼえる」。そうすると、ふしぎに相手が話したことも、映像といっしょにしっかり記憶にのこった。
 「記憶したいことは視覚化する」。じつをいうと、これはインテリジェンスの訓練として、いろんな国で採用されている方法なんだ。
 『KGBスパイ式記憶術』という本がある。これは、ロシアで諜報部員を養成する学校、つまりスパイスクールでおこなわれている記憶術を紹介した本だ。きみたちにだって役にたつことがたくさん出ているから、本屋さんや図書館で眺〈なが〉めてみるといいだろう。


教科書だって「見ておぼえる」

『KGBスパイ式記憶術』の最初の章では、視覚を使った記憶術を高めるための、こんな方法をあげている。

机の上にある物を見てみたまえ。そこにある物すべてに注意を払うのだ。 何がどこにあるか? どのように置かれているか? 一つひとつの特徴は? 色、質感、傷は?
では目を閉じて、まず机を想像してみる。次に、机の上の物を一つずつ思い描くのだ。細かい点までイメージしてみるのだ。イメージできない場合は少しの間だけ目を開け、思い描くのが難しかった物を見てから、また目を閉じてイメージし続ける。

(デニス・ブーキンほか著、岡本麻左子訳『KGBスパイ式記憶術』水王舎、53ページ)

 この方法を教科書の暗記に応用してみるんだ。社会の教科書のページを開いて、歴史のところを見てみよう。
 見開きの左ページの上に、歴史上の偉人の写真が出ている。右側のページの下には、年表がのっている。写真のすこし下に重要人物の名前が太字で、年表の下には「●●●●年に○○が起きた」ということが、やっぱり太字で印刷されているとするね。そんなレイアウトをしっかり見てから、目を閉じて、重要なポイントから心に思い描けるかどうか、確かめてみるんだ。これをくりかえしていくと、写真や年表、グラフなどの視覚情報といっしょに、年号や人の名前が記憶に焼きつくはずだ。
 スパイ養成の訓練で使われている方法を、きみの勉強に応用する。ちょっとカッコいいだろう。

 【スイスイ暗記のための3つの鉄則】
 ① 暗記するためのいちばんの方法は音読。1冊の教科書を3回音読すれば、自然と内容が頭に入ってくる
 ② 教科書でとくに重要なところは音読を録音して、それを聞きながらノートに書きとっていく
 ③ 見ておぼえることだってできる。教科書の見開きページを目に焼きつけてから、目を閉じて、重要なポイントから心に思い描けるかどうか、確かめてみる


5教科の教科書を音読してみよう

 ここまで、記憶の方法について解説した。
 暗記というと、英語や国語、数学など3教科と結びつけられがちだけど、ぼくは主要5教科の教科書はすべて音読したほうがいいと思っている。さっきも話したとおり、5教科はきみたちが高校や大学に進んでから、こんどは自分のアタマでしっかり考えて勉強するための土台となるものだから。さらにいうと、中学校での勉強のうち、社会に出てから役にたたないものはないからだ。
 英語、国語、数学、理科、社会のどれかができないと、社会に出てから就〈つ〉ける仕事の幅がせまくなってしまう。きみたちの多くはまだ、将来どんな仕事をしようかなんてあまり考えていないかもしれない。でも、いつかは自分の仕事を決めるときがくる。
 そのときに、中学の勉強をしっかり身につけている人とそうでない人では、選択の幅がぜんぜん違ってくるんだ。それはなぜかというと、いろんな科目に関心をもちつづけると、それだけいろんな選択肢〈し〉を想像することができるから。
 優くんは中学を卒業するころ、ソ連のことをもっと知りたいと思って、NHKのラジオ・ロシア語講座のテキストを買った。けっきょく、そのときはほとんどものにならなかったけれど、ロシア語のアルファベットはおぼえたし、ロシアへの関心を高めることができた。
 いま思うと、大学院を終えて外務省に入省し、ソ連に行ってインテリジェンスの専門家になったのも、中学生のときにロシア語に関心をもったことが関係していると思う。
 優くんの例はちょっと特殊かもしれないけれど、勉強をつづけるというのは、関心をもちつづけること。それが将来の選択肢の幅を広げることになるんだとおぼえておいてほしい。

 *『12歳からはじめよう 学びのカタチ──優くん式「成績アップ」5つの秘密』は、2019年10月25日に刊行予定です。ご期待ください。

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プロフィール

佐藤 優(さとう・まさる)

1960年、東京都生まれ。埼玉県立浦和高等学校から、同志社大学神学部に進学。同志社大学の大学院神学研究科を終えて、85年に外務省に入る。ロシアとの外交に力を尽くしたが、2002年に背任容疑などで逮捕される。512日間を「檻のなか」ですごしたあと、保釈。その経験を記した『国家の罠──外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮文庫)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。以後、執筆活動に取りくむ。ソ連崩壊の過程を外交官としての目でまとめた『自壊する帝国』(新潮文庫)で、新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。とくにおすすめは、『先生とわたし』(幻冬舎文庫)、『十五の夏』(上下巻、幻冬舎)、『君たちが忘れてはいけないこと──未来のエリートとの対話』(新潮社)、『国語ゼミ──AI時代を生き抜く集中講義』(NHK出版新書)。作家活動以外に、高校、大学などで講演、講義を精力的におこなう。

西原理恵子(さいばら・りえこ)

1964年、高知県生まれ。マンガ家。武蔵野美術大学卒業。88年、週刊ヤングサンデー「ちくろ幼稚園」でデビュー。97年『ぼくんち』(小学館)で文藝春秋漫画賞、2004年『毎日かあさん(カニ母編)』(毎日新聞出版)で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、05年『毎日かあさん』、『上京ものがたり』(小学館)で手塚治虫文化賞短編賞、11年『毎日かあさん』で日本漫画家協会賞参議院議長賞受賞。『りえさん手帖』(毎日新聞出版)、『ダーリンは73歳』(小学館)、『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』(KADOKAWA)など著書多数。