人気・実力を兼ね備えた執筆陣が贈る連載・読み物や豪華インタビューなど、
NHK出版が刊行する書籍(新書・翻訳書・文芸書・教養書)をご紹介するサイトです。

インタビュー

吉野彰氏 ノーベル化学賞受賞記念インタビュー

最終更新日 2019.11.15

取材・文=辻谷秋人

「99の問題点と、1つの図抜けた良い特性」

「リチウムイオン電池」の開発で2019年のノーベル化学賞を受賞した、旭化成株式会社名誉フェロー・吉野彰さん。NHK出版では2017年の『NHKカルチャーラジオ 科学と人間 電池が起こすエネルギー革命』で、電池の仕組みと実用化への道のりを綴っていただきました。ノーベル賞受賞決定後の吉野さんに、電池開発へとつながるご自身の研究の原点について、お話を伺いました。

――このたびはノーベル化学賞受賞、おめでとうございます。

 ありがとうございます。


――今回の受賞理由であるリチウムイオン電池の開発過程、いわゆる「開発秘話」の数々がこの『電池が起こすエネルギー革命』に書かれていますが、そもそもご自身のお仕事、研究の場所として、大学の研究室ではなく、旭化成という企業を選ばれたのはなぜでしょうか。

 理系の学生はたいてい、マスターを終えたところでドクターに進むか企業に就職するかを選ぶことになります。私がマスターを終えたのは1972年だったのですが、ちょうど高度成長にも陰りが見えた、時代の変わり目だったんです。その時代に何をするかを考えたときに、企業で新しい製品を作って、それを世界に広めていくことに、新しい分野を切り開いていくというのか、挑戦的な、アクティブなイメージがあったんですね。それで企業に入ることにしたんです。
 大学紛争が終わったばかりで、大学をめぐる状況があまりよくなかったということもありました。

NHKカルチャーラジオ 科学と人間 電池が起こすエネルギー革命


――リチウムイオン電池の開発も、最初から「電池を作る」ことが目的で始まったわけではなかったそうですね。

「導電性高分子」という素材の研究から始まったんです。私は1981年にノーベル賞を受賞された福井謙一先生の孫弟子になるんですが、福井先生の「フロンティア理論」で、本来ならば絶縁体であるプラスチックでも、分子構造によっては金属光沢を持って電気が流れるものがあると予測されたんです。これが導電性高分子です。
 その電気が流れるプラスチックであるポリアセチレンの合成に、白川英樹先生が成功されたんですね。そのポリアセチレンについて調べているうちに、これは新しい電池に使える、これで電池を作ろうということになったんです。


――白川先生もノーベル賞を受けられていますね。

 2000年の受賞ですね。福井先生が1981年に受賞されて、福井先生の研究を元にされた白川先生が19年後の2000年に受けられて、その白川先生の成果から始めた私が2019年と、19年ごとの受賞になっているんです。次はまた19年後に、リチウムイオン電池から発展したものが受賞するかもしれません(笑)。
 よく「産学連携」ということが言われますが、リチウムイオン電池は福井先生が「理論」を作り、それを白川先生が「実現」して、それを私が企業で「製品化」したことになります。流れとしての産学連携がうまくできた例だと思います。


――実際の開発にはとても長い時間を要されて、しかもたいへんな苦労の連続だったということですが、諦めずに続けられたのはどうしてでしょう。

 開発を始めてから事業化までに10年、さらに製品が社会に受け入れてもらえるまでに5年、あわせて15年ほどかかっています。これだけ時間がかかると、ふつうは心が折れてしまいますね(笑)。
 この研究でもいろいろな失敗はありましたが、研究というのは失敗から学んでいくものなんです。ですから、困難に突き当たる、壁にぶつかるというのは、学ぶ機会を得ることであって、ありがたい話なんです。どんどんぶつかっていいんです。
 とはいえ、辛いことは辛いので、そんな中でモチベーションを持ち続けられたのは、この製品が必要とされる時代が必ず来るんだという信念を持っていたこと。そして、困難ではあってもゴールは必ずあると信じたことですね。


――この本の中で吉野さんは、次に来る大きな変革は「ET革命」「エネルギー革命」で、その原動力のひとつがリチウムイオン電池である、とおっしゃっています。この本が出てから2年になりますが、そのわずか2年でそれが目の前まで来ていることが実感できるようになりました。

 そうです。そのエネルギー革命は環境問題の解決につながるもので、私がノーベル賞をいただけた理由もそこにあるのだと思っています。


――石油などの化石燃料や原子力への依存から脱却して、CO2排出と地球温暖化、そして安全性という問題を解決する。社会全体を変える力になる。

 ええ。環境問題は誰かが答えを出さなければいけない時期に来ているんです。そしてその姿は見えてきている。おそらく2030年くらいにはできるのではないかと思います。
 だからいまは若い人たちにとって、とても大きなチャンスだと思うんです。絶好のチャンスですね。もしエネルギー問題、環境問題を解決する発明ができれば、その貢献でノーベル賞をもらえるでしょう。


――ただ、その若者たちの理系離れ、理科離れということが言われています。次の時代を作っていく彼らにお言葉をいただけますか。

 若い人たちに理科を学ぶモチベーションが少ないのは、やり方がわからないからだろうと思います。そこは我々が刺激してあげられたらいい。
 製品開発で大事なのは「1つの図抜けた良い特性」です。新技術を実用的な観点から評価する項目が100あるとするなら、99が問題点であったとしても、まず「1つの図抜けた良い特性」があるかどうか、それを見つけることから始まります。そして、これは人間でも同じだと思うんですね。「1つの図抜けた良い特性を持った人」がいい。
 私は座右の銘を聞かれると「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」を挙げます。ふつうは「成功した人ほど謙虚である」といった意味に取られますが、私はむしろ「実る前の若い人が頭を垂れてはいけない」というのが、ほんとうの意味じゃないかと思うんです。
 若いときは、とんがっていていい。とんがった人がブレークするんです。変に丸くならないで、思い切ってやってほしいと思います。

プロフィール

吉野彰(よしのあきら)

旭化成株式会社 名誉フェロー

1948年生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了、大阪大学大学院工学研究科博士(工学)取得。1972年、旭化成株式会社に入社後、技術畑を歩み、ガラス接着性フィルム、リチウムイオン電池などの研究開発に携わる。2017年7月、名城大学大学院理工学研究科教授、10月、旭化成株式会社の名誉フェローに就任。2004年、リチウムイオン二次電池開発の功績により紫綬褒章、2014年、全米技術アカデミーのチャールズ・スターク・ドレイパー賞、2019年10月、ノーベル化学賞受賞決定。同年11月、文化勲章を受章。