人気・実力を兼ね備えた執筆陣が贈る連載・読み物や豪華インタビューなど、
NHK出版が刊行する書籍(新書・翻訳書・文芸書・教養書)をご紹介するサイトです。

連載

池谷裕二+ヨシタケシンスケのそのモヤモヤ、かいけつします

最終更新日 2019.08.15

質問する人
東京学芸大学附属竹早小学校3年~6年生のみなさん

答える人
池谷裕二 薬学博士。東京大学・大学院薬学系研究科・教授。48歳、しし座。好きな食べ物はたけのこ。6歳と3歳の女の子のお父さん。

いっしょに考えてイラストを描く人
ヨシタケシンスケ 絵本作家、イラストレーター。45歳、ふたご座。好きな食べ物はイカ。12歳と7歳の男の子のお父さん。

第2回
質問 どうしたらリーダーになれますか?

野球女子巨人さん(6年)より


 野球女子巨人さんは、「リーダー」と聞いて、どんな人を想像するかな?
 いつも堂々としていて、みんなの意見をまとめられる人──。
 まわりの人の長所を見つけて伸ばしてあげられる人──。
 クラスでもめごとがおきたときに平和におさめられる人──。
 こんなふうにリーダーにたいするイメージは、人それぞれにちがうはず。だからこそ、知りたいよね。いったいどんな人がリーダーにふさわしく、どうしたらリーダーになれるのか。
 じつは、「リーダーシップ」にかんして、スイスのチューリッヒ大学の研究室がおもしろい実験をおこなって、アメリカの科学雑誌「サイエンス」に論文が掲載されたんだ(2018年8月)。ここではわかりやすく、スーパーの景品コーナーで見かける三角くじで説明してみよう。箱のなかにはあたりくじが9枚、はずれくじが1枚入っているよ。ルールは次のとおりです。

ルール①
あたりをひいたお客さまには1000円プレゼントします。はずれくじをひいたら、100円をおしはらいください。くじをひくかひかないかは、お客さまの自由です。
ルール②
4人でチームをつくってリーダーを1人きめてください。あたりをひいたお客さまには1000円をプレゼントします。はずれくじをひいたら、全員100円ずつおしはらいください。リーダーはご自分でくじをひいても、だれかほかのメンバーにひいてもらってもけっこうです。

 さあ、野球女子巨人さんはどうするかな? ①は1000円もらえる確率が高いし、運わるくはずれても損するのは自分だけなので、当然だけど、くじをひく人が多かったんだ。しかし、②のときは自分でくじをひくのをやめて、別のだれかにまかせようとする人が続出したんだって! そりゃあ、はずれをひいて3人から責められたらいやだもんね。
 このように、他人によくない影響をおよぼす行動をさけようとする気持ちを「責任嫌悪(せきにんけんお)」とよびます。ちょっと難しいね。②のときは多くの人がこの感情をいだいて、くじをひくことをやめたことになる。でもまれに、①でも②でも態度を変えずにくじをひく人がいたんだ。その人たちの脳をあれこれしらべてみると、責任をともなう決断をせまられたときに、記憶や思考、決断にかかわる脳のはたらき(認知機能)が高まっていることが判明。ふむふむ、リーダーになるために必要そうな能力だね。
 また、この研究チームが開発した特別な計算方法でデータをとってみると、責任嫌悪が低い人のほうが「リーダーシップスコア」が高いという結果が出て、研究チームは、かれらこそがリーダーにむいていると結論づけたんだ。つまり、自分の行動で仲間に被害がおよんだとしても、「そのときはわたしが/ぼくが責任をとる!」と、いさぎよく決断できる人がリーダーに向いているってことだね。
 むかしから、いつの世もリーダーは存在しました。イエス・キリスト、おしゃかさま、ナポレオン、織田信長、スティーブ・ジョブズ……。人々はそういったリーダーを尊敬し、少しでも近づくために、本や資料を読んで「理想のリーダー」とか、「リーダーに必要な条件」を知りたがってきた。そして世界中でいろいろな研究がされているよ。そうしたなかで、リーダーシップについて科学的に調べてみたチューリッヒ大学のこの研究は、とてもユニークで説得力のある内容として注目されたんだ。野球女子巨人さんみたいに、リーダーになりたい人のヒントになるんじゃないかな。
 ところで、クラスで何かを決めるとき、多数決をとるでしょ? あれも責任をさけるひとつの方法といえそうだ。多数決で決めれば、うまくいかなかったときに「だって、みんなで決めたことじゃん」とおたがいに言いわけができるからね。でも、こういうときにこそ、「みんな、ついてきて! 失敗しても、ぼくが/わたしがぜんぶ責任をとるから」というような人が、リーダーにふさわしいのかもしれない。
 もちろん、口ばかりで行動がともなわなかったら、だれもついて来ないよね。自分の決断がどんな結果をもたらすのか、失敗しないためにどういうプランを立てればいいのか、自分の決断によって人にめいわくをかけたときに、どうフォローすればいいのか……。そんなふうに先のことをよく考えて、どう行動するかを自分で決められることが、リーダーになるためには大切なことかもしれないね。



(構成=髙橋和子)