遠いものから、近いものから

取材レポート|ワタナベマキさん(料理研究家)

近刊の『ワタナベマキの梅料理』などレシピ本から、暮らしにまつわる表現の数々まで。料理研究家のワタナベマキさんは、料理と暮らしをフィールドに、多種多様なお仕事で活躍されています。そのアウトプットを支えるインプットについて伺うことで、学びのヒントを探してきました。

UP DATE | 2021.07.26

一つ一つの挑戦が、アウトプットになっていく

ワタナベさんのお仕事の中でも特に「本」について伺わせてください。ご自身にとっての本づくりの魅力を教えてくださいますか?

編集さん、カメラマンさん、デザイナーさんたちとアイデアを出し合って、チームとしてつくり上げていく感覚が好きですね。5月に出した「梅料理」の本も、それこそ最後の最後まで、何回も何回も構成を変えていて。そういったことに伴走してくれる粘り強い方々と、一人だと思いつかなかったようなことを実現していく。そんなところに立ち会えるところが私にとっての魅力だと思います。

「エスニック」「蒸し料理」「キャンプ」などなど、多岐にわたるテーマはどこから生まれてくるのでしょうか?

幸い提案をいただくことも多いんですが、反面、自分はこれをやりたい!と思っていたものがそのまま通ることって、なかなか難しい実感があります。その意味では、与えられた大きなテーマの中に、自分流とか自分の好きなものを落とし込む、みたいなことが得意なのかもしれません。

もちろん話し合っているうちに、本の方向性が変わっていくこともありますし、無理やり出したレシピはやっぱり説得力がなくなってしまうので、このテーマで自分がやるならこうかな、っていうものを常に模索して挑戦している感覚です。

本やお仕事の数だけ、挑戦があるんですね!

ドキドキはしますけど、チャレンジングで燃えます(笑)。知らない分野の料理でも自分が作ったらどうなのかなと考えたり……。まだまだやったことないことはいっぱいあるので!

好きなものを、どんどん自分に取り込んでいく

ワタナベさんの最初のお仕事はデザイン関係と伺っています。そのあたりの「挑戦の歴史」を教えていただけますか?

大学3年生のときの広告代理店のデザイン室でのインターンで、ものを考えてそれをデザインで説明することに興味が湧いたんです。そこで大学4年生のときに1年間、大学に通いながらダブルスクールでデザインを学びました。デザインソフトの使い方や視覚デザインについて学んで、最終的にインターン先のデザイン室で働くことになったんです。

そうやって仕事をはじめ、次のデザイン事務所でお弁当やケータリングをつくりはじめたことが、今の仕事につながっています。

デザイン事務所時代も、本気で料理を仕事にするならと思い、料理学校に通いました。若かったからできた面もあるかと思うんですが、働きながら週に3日、夜間の学校に行かせてもらっていました。

まさに挑戦の連続ですね……!デザインのお仕事や料理学校での学びは今に生きていますか?

デザインと料理はすごく似ていると思うんです。限りあるスペースに素材を落とし込むお弁当なんかは特にレイアウトの世界でもあるので好きですし、考え方みたいなものはすごく参考になっていると思います。

料理学校についても、もちろん技術的なことは恥ずかしくない仕事をするうえで、とても役立ったなと思います。でも実は料理学校をいくつか見ていたときに、ある学校で言われたことが一番印象的で。学校の説明会で「今働いていて、料理の仕事をしたくて学ぼうと思っている」と話したら、そこの先生が「料理教室に通うより、美味しいものをたくさん食べに行ったほうがいいよ」っていう一言をくれて、なるほど、そっか、そうだよなあ、と妙に納得してしまったんです。

舌を鍛えるとか、自分では作らない料理を組み合わせてみるとか、目指すところは家庭料理だとしても、そういうことを知ることで幅が広がるし、すごく大事なことだと思わされたんです。結局その学校には行かなかったんですけど……(笑)。

素敵なアドバイスですね! そうした実体験を大切にする姿勢が、ご自身なりの表現のための、大切なインプットにつながっているのかもしれませんね。

やっぱりそれは大事にしていますね。料理でいえば、私が作る家庭料理とレストランのシェフや職人の方が作る料理は全然違いますけど、体験してみることで、身近な料理にこうやったら落とし込めるだろう、なんて考えられますし。

大好きな旅行でも、旅先の暮らしにまつわるものや、現地の食事に触れることが、巡り巡って、その先のレシピや企画につながることもあるんです。

現地で料理教室に参加して、そこで習った料理を日本に帰ってきてから素材を代用してつくってみる、といったこともしています。このところ旅行には行けていないのですが、以前ラオスで参加した料理教室は、みんなで市場に行って素材を買って料理してと、とても楽しかったですよ。

そういった体験は仕事を意識して記録を残したりされているんですか?

いえいえ!逆に仕事を意識しすぎないようにして、とにかく楽しむことが大事だと思っています。ただただ楽しんで、でも作れそうだなって思ったものは必ず帰ってきてから作ってみることで、後から記憶や経験がよみがえってくるような感じです。

同じように、母が昔こういう煮物を作ってくれたな、あんなお菓子作ってくれたな、みたいに、当時は意識しなかった味の記憶や舌の記憶みたいなものが、自分の旬を大切にする感覚や、レシピの根っこにあるイメージもあります。

いつかの体験が熟成されて、アイデアとしてよみがえってくるんですね。

あまり学びや仕事を意識せずに、好きなものをどんどん自分の中に取り込んでいくことが、結果的にアウトプットにつながっているのかもしれないですね。

特に食に関してはなんでもトライするし、インドに行って一度もお腹を壊したことがないのが自慢です(笑)。料理とも重なる「日々の暮らし」そのものが好きなので、そういったインプットは苦にならないです。

「遠いもの」から見えてくる

ちなみに、インプットのために他の料理本は読んだりされますか?

実は今のものはあまり読まないんです。本当は読んだ方がいいんでしょうけど、やっぱり自動的に意識が向いてしまって提案が似てきてしまうので。洋書、昔の料理本、デザインの本のようなものを読むことが多いですね。

料理教室をしていた祖母が残してくれたレシピカードも、王道のものから少し不思議なものまで書いてあって、レシピを考えるときにパラパラめくって見たりします。祖母とは一番近くに住んでいたのが高校生のときで、やっぱり他に楽しいこともあったので(笑)、体系だって料理を教わったとは言えないんですが……。こういった一見「遠いもの」からの方が、自分の仕事にうまく落とし込めている気がします。

おばあさまが残したレシピカード

「美味しいものをたくさん食べに行った方がいいよ」という言葉に通じるものがありそうですね。

目的意識にとらわれすぎないっていうのがあるのかもしれません。とにかく本を作るためにやっているんじゃなくて、興味が芽生えたものをちゃんと体験したり、追い求めたりすることが結果として、良いインプットになっているのかもしれないです。

逆にアウトプットに関しても、若い時の方が、「これは自分にはできない、やりたくない」と思いがちだったんですが、いろんなことを経験することで、これならできるかもしれない、やってみよう、という気持ちが芽生えるようになってきました。

言いつづけることが、引き寄せることにつながる

今、何か体験したいと思っていることはありますか?

アーユルヴェーダと草木染をやってみたいと思って、本を読んだり、友だちに聞いたりしているところです。何かが気になったときには、とにかく周りに聞いてみることが多いんですが、今回も、たまたま近所に草木染工房があって、知り合いがそこで染めたことがあると分かったんです。興味があることって不思議とつながってくるし、人に聞いてみたり言ってみたりすると、どんどん前に進んでいく感覚があって面白いですね。

自分が発信すると、向こうから情報が集まってくるんですね。

そうなんです。昨年猫を飼い始めたんですが、これも猫を飼える環境になったことを周りに言っていたらご縁ができたりと、なんだか引き寄せられたみたいでした。

先ほどお話に出た「梅料理」の本も、昨年出版した「蒸し料理」の本も、「うちではちょっと…」という出版社さんも多かったんですが、ずっとやりたいこととして言いつづけているうちに、面白そうと言ってくれる人に出会えて動き始めたんです。本や仕事でも「こういうことがやりたい!」と言いつづけることが大事だと再確認しました。

愛猫のひとり、ハットリくん

インプットをつづけるための、「遠いもの」「近いもの」

すてきなキーワードをたくさんいただいてしまいました……! 最後に、そうしたインプットやアウトプットをつづけていくためのご自身なりの「学びの秘訣」はありますか?

今までお話してきたこともあるのですが、つづける、という意味では「近い目標」だけでなくて「遠い目標」があるとよいかな、と思っています。試験やテストみたいなものは「近い目標」にして、その延長線上に「遠い目標」を置けるとつづけやすいかな、と思うんです。

今、子どもが英語の検定試験を受けるので、私も一緒に勉強して勝負しようとしているんですが、英語で言えば、2か月後に試験を受けるけど5年後に留学したい、みたいなことでしょうか。必ずしも5年後にそうなるとは限らないですけど、近い目標があるとステップアップが実感できるし、5年後こうありたい、10年後こうありたい、というなんとなくのイメージや目標があると、仕事も趣味も、ブレずにつづけることができるんじゃないかと思います!

今回はありがとうございました!

ワタナベマキさんの学びの秘訣
1.「近い目標」と「遠い目標」を持つ
2.目標を意識しすぎず、その時その時を自然体で楽しむ
3.一見目標から遠いものも大切にする

【編集後記】ワタナベさんの多彩なアウトプットを支えるインプットから、たくさんの学びの秘訣が見えてきました。また、その根の部分にある「好き」を大切に育みながら、周りの方と分かち合って前に進んでいく姿勢も、とても重要に思わされた時間でした。

ワタナベマキ|料理研究家。大学時代にデザインを学び、広告代理店勤務を経てグラフィックデザイナーに。2005年、勤務していたデザイン事務所でランチやケータリングを担い、料理の活動をスタートする。現代的なセンスをとり入れた、ナチュラルなレシピが人気。NHK「きょうの料理」をはじめ、テレビやウェブサイト、雑誌など幅広いメディアで活躍中。著書も『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)、『ワタナベマキの梅料理』(小社刊)など多数。

STAFF

  • Photo : Sachie Abiko
  • Text & Edit:Shinsuke Sato(NHK Publishing)

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