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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

1一 生者と死者1 平成三十年五月二十九日、気け仙せん沼ぬま市南みなみ町まち。 午前五時、まだ柔らかな朝陽が穂ほ村むらの?を撫でる。潮混じりの風はいくぶんねっとりしているが、それでも海上で受けるよりも肌に心地よい。揺れない足元にも安堵感がある。 穂村にはひと月ぶりの陸だった。遠洋に出ると、まず一カ月は海の上だ。来る日も来る日も波に揺られ、直射日光に炙られる。漁船の上は潮と魚の臭いに満ち、最初は辟へき易えきするが、そのうち嗅覚が麻痺して鈍感になる。陸に上がってようやく本来の感覚を取り戻す、その繰り返しだった。 遠洋での一本釣り漁は決して楽な仕事ではない。陸に上がった際の解放感が際立つのはきっとそのせいだろう。 今回の釣果も悪くなかった。気仙沼港はカツオの水揚げでは二十一年連続日本一を誇っている。この調子なら記録を更新できそうだ。 連続二十一年はただの数字の連なりではない。間に二〇一一年の震災を挟んだ上での連続に意