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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

13「死体が持っていた運転免許証を見せてくれ」 事態を把握した一ノ瀬はテントから離れ、警察車両へと向かう。ややあって戻ってきた一ノ瀬の手にはビニール袋が握られていた。袋の中には運転免許証が封入されている。 氏名    笘篠奈津美 生年月日  昭和55年5月10日 住所    気仙沼市南町2丁目〇?〇 記載されている内容は笘篠がよく知る情報のままだ。交付年月日が震災発生の前年というのも記憶の通りだ。 ただし写真に写っているのは死体の主であって、やはり見たこともない女だった。「まさか別人だったとは。笘篠さんに無駄足を踏ませてしまいましたね」「お前には女房を会わせたことがなかった。氏名と住所だけ見て女房と判断したのはむしろ当然だ。気にするな」「そうなると別の問題が発生します」 笘篠の肩越しに免許証を覗いていた蓮田が割って入る。言われるまでもない。この女は何者で、どうして奈津美の名前を騙かたっているのか。「それにしてもよくできた運転免許証ですね。現物の写真だけを入れ替えたんでしょうか」「いや、それはないと思う」 笘篠は言下に否定した。「女房はいつも免許証を札入れの中に仕し舞まっていた。その札入れは家と一緒に流れている。万が