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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

14 一 生者と死者一誰かが拾ったとしても、こんなに綺麗なはずがない。海水や泥を吸って、たっぷり汚れていなきゃおかしい」「どうしますか。ただの自殺でないのは判明しましたけど、運転免許証の偽造だけなら県警本部と合同で捜査するまでもないと言われそうですよ」 蓮田はちらちらと一ノ瀬を盗み見しながら言う。考えていることは手に取るように分かる。この件は気仙沼署に一任して笘篠は関わってくれるなと言外に匂わせているのだ。 思いは一ノ瀬にも伝わったらしく、かつての同僚も援護にかかる。「そうですね。詳細は司法解剖待ちといっても自殺の線が濃厚ですし、ウチの署だけで手は足りますよ、きっと」 何も自分から古傷に触れることはない。二人がそう言いたいのは手に取るように分かった。だが、女房の個人情報を勝手に使われた笘篠の腹立たしさには気づかないか、気づかぬふりをしている。「別に合同捜査をする必要はない。女一人の自殺なら重大事件でもない。しかし一ノ瀬、免許証名義人の家族に事情聴取する必要はあるんじゃないのか」「それはまあ、確かに」「だから刑事としてではなく、いち関係者として捜査に加わる。もちろん県警本部には俺から話は通しておく。気仙沼署もそういう建前なら細かいことは言わんだろう」 一ノ瀬は露骨に迷惑そうな顔をする。「笘篠さんが言い出せばウチの部長も無下に断るような真ま似ねはしないでしょうね。死んだ女の関