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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

15係者でもありませんから、捜査に支障が出る訳でもありません。しかし……」「しかし何だ」「笘篠さん、県警本部だけでも結構案件を抱えているでしょう。ウチの事件に首突っ込むような余裕あるんですか」 内情を知ってか、一ノ瀬は痛いところを突いてくる。県警本部のお膝元である仙せん台だい市はいち早く復興の進んでいる地域だが、他県からの人の流入と同時に事件も増加した。捜査一課は常時人手不足の状況となり、笘篠自身県警本部に泊まりがけの日々が続いているのだ。「俺の余裕をお前が決めるな」 笘篠は角が立たないようにやんわりと抗議する。「お前だって、亡くなったご両親の名前を騙る人間がいたら、文句の一つも言いたくならないか」 一ノ瀬が痛いところを突いたことへの意趣返しではないが、笘篠の反論もまた彼の弱点に触れたらしい。一ノ瀬は辛つ らそうに顔を顰しかめてみせた。「切り返しの鋭さは相変わらずですね」「お蔭様でな」「知ってましたか。笘篠さんが県警本部に引っ張られた時、惜しむ声より安心する声の方が多かった」「ずいぶん嫌われたものだな」「いや、怖がられたんですよ」 一ノ瀬は冗談めかして笑うと、運転免許証入りのビニール袋を手に警察車両へと足を向ける。