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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

16 一 生者と死者「どうせ解剖報告書や鑑識報告書もご覧になりたいでしょう。わたしから部長に根回ししておきますけど、笘篠さんからも手を回しておいてください」「迷惑を掛けてすまんな」「いいですよ。免許証を見た時から覚悟していましたから」 一ノ瀬の姿が見えなくなると、蓮田が同情半分呆れ半分といった体の顔を向けてきた。「気仙沼署の方は上手く丸め込めても、石動課長を説得できるとは限らないでしょうに」「まあ、何とかなる」 石動への説得は避けられないことだが、仮に叶かなえられなかったとしても諦めるつもりは毛頭なかった。 一ノ瀬や蓮田は不明女性の自殺を気仙沼署の事件にしたがっているようだが、笘篠の気持ちは違う。 これは俺の事件だ。2 蓮田とともに県警本部に帰着した笘篠は、刑事部屋の石動に向かった。「全くの別人だったか」 報告を受けた石動はほっと安堵したようだった。妻の死体と対面させられて悲嘆に暮れる部下を見ずに済んだからだろうか。