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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

17「全くの別人だったことが逆に気になります」 気仙沼署の捜査に加わるなら、石動の言質を取っておいた方がいい。合同捜査でもないのに所轄の捜査に首を突っ込むのだから、色よい返事があるはずもない。だがひと言添えると添えないとでは雲泥の差がある。「何者かが妻の個人情報を悪用しています」「そうだろうな。おそらく死体が持っていた運転免許証は偽造だろうが、個人情報がなければ偽造もできん」「妻は著名人でもなければ金融機関の名簿に載るような蓄財家でもありません。全くの一般人です。そんな一般人の個人情報を入手できるのなら、今回と類似した事件が他にも発生している惧おそれがあります」「可能性の指摘については同意しよう。だが犯罪の抑止が我々の任務であっても、実際には起こった事件に対処するのがやっとだ。人手も慢性的に不足しているしな。行方不明の細君の件もあって気になると思うが、県警の捜査員が出しゃばるような事案ではない」 想像した通りの反応だったので、笘篠は却って安心する。「ただし、気仙沼署から協力を求められれば応じない訳にはいかない。所轄への捜査協力は我々の義務だ」 課長の立場では必要最低限の義務に言及するのが精一杯に相違ない。それも笘篠には織り込み済みだった。 石動の歯切れが悪いのは、同じ東北人同じ警察官でありながら震災被害に遭ったか否かの差が