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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

19『司法解剖の報告書が上がってきましたよ』 報告書自体はテキスト化して送信するのも可能だが、送信記録が残れば一ノ瀬に迷惑が掛かる惧れがある。「時間を都合して、そっちへ行く」 抱えている事件の捜査を早めて時間をこしらえようと努める。尋問やら証拠調べやら一つ一つの捜査を疎かにするつもりは毛頭なかったが、傍はたからはオーバーワークに見えたのだろう。蓮田が小声で話し掛けてきた。「わたしにできる仕事だったら遠慮なく回してくださいよ」 蓮田の厚意でわずかながらの余裕ができると、気仙沼署に急いだ。「唐沢検視官の見立て通りでしたよ」 一ノ瀬の説明を聞くのももどかしく、笘篠は解剖報告書に目を通す。要点は以下の通りだった。(1) 直接の死因は循環障害である。(2) 胃の内部に軽度の糜び爛らんが認められ、薬毒物が経口的に摂取されていることを示している。(3) 剖検に際しては胃および腸内容物、骨格筋、脂肪組織から試料を採取し、薬毒物分析を行った。まず予備試験においてトライエージで測定。その後、本試験では薄層クロマトグラフィーを採用した。(4) 右分析の結果、試料からはフェニルピラゾロン系(アミノピリン)が検出された。「薬毒物については詳述をもらいました。フェニルピラゾロン系薬物は中枢神経機能を抑制し、傾眠から昏睡に至る意識障害、呼吸困難、循環障害を生じる成分を含有しています。大量使用時