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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

20 一 生者と死者は昏睡状態となり、やがて死に至ると」「死体の脇に落ちていた市販薬の成分と一致しているのか」「ええ、見事に。薬と毒は量的な違いでしかないのは承知していますが、こんな危険な薬物を市販している現実がちょっと恐ろしいです。この市販薬、今でもバンバンCMが流れているでしょう」 一ノ瀬は包装シートの写った現場写真を指で弾いてみせる。「包装シートからは本人の指紋のみが検出されている。死体の転がっていた周辺には本人の足跡しか残っていない。本人は午後十時から十二時までの間、一人で海岸にやってきて服毒自殺に及んだ……これがウチの署の下した判断です」 現場の状況と解剖報告書を照らし合わせれば当然の判断だった。だが問題の本質はそこではない。自殺した女の素性と奈津美の個人情報をどこから入手したかだ。「女性の指紋をデータベースで照会しましたがヒットしませんでした」「少なくとも前科はなかったんだな」「署では顔写真を公開して広く情報を集める方針です」「偽造免許証の出で 処どころは判明したのか」「そっちの分析も終わっています。どうやら3Dプリンターで作ったらしく、ICチップこそ埋め込まれていませんけどそれ以外は真正の免許証そっくりに仕上げています。こんなものが素人でも作れるっていうんだから、我々警察にはやりにくい世の中です」 全くだ、と笘篠も同意する。新技術とともに犯罪の手口が進化する。それに対して警察の捜査