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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

26 一 生者と死者「だったら、いったいどんな優先順位なのよ。一番は家庭なの、それとも仕事なの」「家庭に決まっているだろ」「それなら写真撮るための一時間くらい何とでもなるでしょ」 互いの言葉が尖ってくる。急いているのも手伝って文言が短くなるから、どうしても乱暴な物言いになる。「その一時間で犯人が逮捕できるかどうかが決まってくるんだ」「犯人と健一のどっちが大事なのよっ」「そんなもの比べられるか。いったい誰のお蔭で飯が食えると思ってる。俺がちゃんと仕事をしているからじゃないか」「そう言うけど、あなた育児なんて何もしてないじゃない」「俺が外で仕事してるんなら、家のことはお前の仕事だろ」「あたし一人で責任持てって言うの。それで父親って言えるの」「もういいっ」 これ以上続ければ怒鳴り合いから?み合いになる予感しかしない。笘篠は半ば逃げるようにしてキッチンを出た。 手早く身支度を済ませて玄関まで来ると、後ろから奈津美が追いかけてきた。「何をそんなに急いでるのよ」「人手も時間も足りない。何度言ったら分かるんだ」「せめて健一の顔を覗いてやってから」