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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

5 どうしてあの時、公務を擲なげうってでも二人を捜しに行かなかったのだろうか。後になって何度も後悔したが、家族の許も とに駆けつけてやれなかったのは何も笘篠だけではない。震災発生時、公務員と名のつく者たちは皆、己の持ち場で事に当たった。そして笘篠と同様に己を責め、自問し続けている。 私を捨て、公に尽くしたことは本当に正しかったのだろうかと。 顔を洗って着替えていると、同僚の蓮はす田だ から連絡が入った。『朝早くにすみません。もう起きてますか』「ちょうど着替え終わったところだ。今どこにいる」『気仙沼署に向かっている最中です。海岸で女の死体が発見されました』 蓮田の物言いに引っ掛かりを覚える。どこか緊張を押し隠した声だった。「殺しか」『それはまだ何とも。気仙沼署ではまだ事故とも事件とも判断していません。検視官も到着していないようですから』「待ってくれ。事故か自殺かはっきりしない状況で、どうして県警本部の人間に召集が掛かるんだ」 一瞬、電話の向こう側で空白が流れる。「どうした」『召集が掛かったんじゃなく、石いし動どう課長がわたしに一報をくれたんですよ。気仙沼署の方から笘篠さんにお呼びが掛かったから一緒に行ってこいって』