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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

6 一 生者と死者「話が見えん」『最初に駆けつけた警官が死体の着衣を探ったところ、カードケースに運転免許証があって身元が判明しました。女の名前は笘篠奈な津つ美みとありました』 束の間、笘篠は息もできなかった。「すぐ、そっちに向かう。現場を教えてくれ」 電話を切った後も、頭の中は千々に乱れていた。支度を整え、ジャケットは小脇に抱えたままで部屋を飛び出す。 奈津美は女房の名前だった。 かつての居住地だから土地鑑はある。カーナビに頼ることなく現場の海岸に到着した。更地だらけの風景を見て、また記憶が無理やりまさぐられる。かつてそこにあった人の暮らしの残骸。笘篠の自宅跡もそうだった。存在していたものも住んでいた思い出も、全てを海の向こうへと持ち去られた。 どんな者にも忘れられない記憶、消去できない光景がある。多くの東北人同様、笘篠にとっては町が波に?まれていく画だった。事件で市街地を離れていた際、突き上げるような衝撃を感じ、いつ終わるともしれない揺れに跪ひざまずいた。だが本当の災厄はその直後に襲ってきた。 何かとんでもないことが起きている。凶事の気配に悪寒を覚えながら捜査を続けていると、次々に未確認情報が入ってきた。 被害は宮城県だけではなく東日本全域に及んでいるらしい。