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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

7 震度7強。 海岸の町に大津波が押し寄せてきた。 やがて笘篠はテレビモニターで惨事を目の当たりにする。霙みぞれ混じりの見慣れた我が町に海水が侵入し、道路を冠水させる。見る間に水位が上がり、轟ごう然ぜんと町に襲い掛かった。 俄にわかには信じ難い光景だった。漁船が町中に押し流され、乗用車やダンプカーがまるでオモチャのように水面に浮かび上がる。轟音に?き消されそうだが、電柱のへし折れる音と人の叫び声がモニター画面から洩れ聞こえる。 中低層のビルに流れ込んだ水が窓ガラスを破り、二階建ての家屋はほぼ水中に没した。笘篠が借りていた家も一瞬で波に?み込まれた。 まるで特殊撮影の映像にしか見えなかった。ほんの数時間前、自分は女房と言葉を交わして家を出たはずだ。その家が今、何かの冗談のように波の狭間に消えてしまった。 波が引くと、更なる驚愕が待っていた。秩序も何もなく、家屋の残骸と家具が層をなしていた。一瞬前の面影すらなく、見慣れた町は巨大な泥でい濘ねいの中で廃墟と化していた。 言葉もなく、笘篠はその場にへなへなと腰から崩れ落ちた。意識ははっきりしているのに、どこか夢見心地だった。目はモニター画面に釘付けなのに、心が現実であるのを拒んでいるようだった。そのちぐはぐさは、今も残ざん滓し となって記憶の底にこびりついている。 じわじわと重くなった胃を抱えてクルマを降りる。建物がまばらなので、遠目からでもブルーシートのテントが認められる。 あのテントの中で奈津美が死んでいる。七年前、津波に?み込まれたとばかり思っていた女房