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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

13 翌日はちょうど非番だったので、笘篠は再び南町に舞い戻った。 既に気仙沼署の捜査員が訊き回った後だろうが、訊かれる側も初対面の相手と顔馴染みでは反応も違ってくる。何より同じ町で同じ被害に遭ったという仲間意識が唇を滑らかにしてくれるはずだった。 最初に訪れたのは海岸近くの理容店〈佐さ古こ理容店〉だ。自宅から近いこともあり、笘篠の行きつけの店でもあった。 プレハブだが、中に入ってみるとバーバーチェアも道具も揃っている。「おや、笘篠さんじゃないか」 奥から出てきた佐古は、笘篠を見るなり懐かしそうに顔を綻ばせた。「七年ぶりかね」「ご無沙汰しております」 家が津波に流され、奈津美と健一を捜しに周辺をうろついたのは一週間ばかりだった。遺体収容場所となった〈すぱーく気仙沼〉にも一度だけ足を運び、いよいよ二人が行方不明となると日常業務に戻った。二人の身体を捜す作業よりも犯罪捜査をしていた方が精神的苦痛を味わわずに済んだからだ。 笘篠は逃げたのだ。