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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

10 一 生者と死者「潮の香りなら町中に蔓まん延えんしている。波の音を聞きつけた可能性も低い。死亡推定時刻、海は凪の状態だ」「……降参です。笘篠さんには仮説があるんでしょ」「仮説もクソもない。鼻が詰まっていようが耳栓をしていようが、行き先を教えてくれる便利なものをお前も持っているじゃないか」「ああ、スマホですね。でも、死体はスマホもケータイも持っていなかったんですよ」「海岸に向かう途中で捨てたか、あるいは海に放り投げたか。大体、あの年代の女が携帯端末の一つも持っていないはずがない。どこかで処分したと考える方が自然だ」「スマホのナビを使って海岸に辿り着いたと仮定すると、海に放り投げた可能性が大きいですね」「女の力でスマホをどこまで遠投できるかは意見の分かれるところだろうが、ダイバーの助けを借りてでも海の底を浚さ らう必要はあるだろうな。気仙沼署もそこまで本腰を入れていないと聞いている」「でしょうね。現場周辺には本人の足跡しか残っていないし、死因は服毒です。自殺の原因を探るためだけにカネやヒトは使いたがらないでしょう」 気仙沼署にその気がないのなら、自分がダイバーになってもいい――およそ無理筋な話を思いついた時、胸ポケットのスマートフォンが着信を告げた。相手は気仙沼署の一ノ瀬だ。「はい、笘篠」『一ノ瀬です。今、よろしいですか』「いつでも結構」