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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

13「あんな被害の後だったので、もう海を相手にする稼業はこりごりだと思ったんですよ」「しかし水産加工から風俗というのは、思い切った転職ですね」 ここでの仕切りは本来の担当である一ノ瀬の役で、笘篠はあくまでも補佐に回る。「傍目には反社会的勢力との絡みやら何やらを想像して腰が引けちゃう人が多いんでしょうけど事務所一つ、電話一本、パソコン一台あれば開業できる仕事ですからね。無店舗型性風俗特殊営業の届け出をしてホームページを作ったら、後は求人と広告を掲載すればいい」「聞いていると、ずいぶん簡単そうですね」「敷居はそんなに高くないんです。ただし開業してからが大変ですね。女の子のレベルをキープした上で、どこまで独自性を出せるかが勝負になります」「しかし一口にレベルをキープするといっても、一人一人サービス内容を教育するのは大変じゃないですか」「別にわたしが手取り足取り教える訳じゃありません。応対やそういうテクニックは女の子任せです。第一、面接時に印象が良さげな女の子だけ採用すればいいんですから」 楽観的な物言いに引っ掛かりを覚える。一ノ瀬も同様だったらしく、質問の口調がわずかに尖る。「まるでひっきりなしに応募があるような言い方ですね」「実際、応募はひっきりなしなんですよ。開業する前はこんなに女の子が集まるなんて予想してなかったんですけど、同業者によると震災以降急に増えたらしいです。津波は建物や人ばかりじゃなく、仕事も流してしまったんですよ」