ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

14 一 生者と死者 実直な喋り方が余計に堪えた。飲食と性に関わる商売は常に需要がある。主幹産業が壊滅状態となった街で女たちがそうした職業に群がるのも無理のない話だった。「通報してくれた件の女性もそのうちの一人ですか」「ああ、そうそう、ナミちゃんの件でしたね。すみません、つい自分語りになってしまって」 ナミというのが不明女性の源氏名らしい。別人とはいえ女房を馴れ馴れしく源氏名で呼ばれるようで抵抗があった。「公開された写真を見て、ぴんときました。面接時には本人確認のために運転免許証と住民票を提示してもらうんですが、その時に見た写真と同じ顔でしたからね」「住民票の住所地はどうなっていましたか」「免許証記載の住所と同一だったと思います。もし相違があれば、その場で確認しているはずなので」「他に履歴書とかは持参しませんでしたか」「こういう仕事の面接に履歴書は持ってきませんよ。普通、面接前に問い合わせがあるんですけど、必要書類は本人確認できる証明書と住民票だけだと伝えます」「面接では詳細な本人情報を聴取しますか」「シフトを組んだり、出勤回数を決めたりするために求人に応募した理由と出勤可能時間は訊きますね。ナミちゃんは震災で職を失い、シングルマザーなので尚更生活費が必要という話でした。昼の仕事はないという話だったので、週五日フルタイムのシフトでしたね」「どんな女性でしたか。自分からプライバシーを話すことはありましたか」