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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

16 一 生者と死者 笘篠と一ノ瀬は顔を見合わせる。午後九時に接客を終えてから南町の海岸に直行したと仮定すると、死亡推定時刻の午後十時にぴたりと計算が合う。「客の連絡先は分かりますか」「こういう予約はほぼ偽名ですよ。ケータイの番号もいつまで有効なんだか」「構いません。捜査にご協力ください」 しばらく栗俣は逡巡している様子だったが、風俗業を営んでいる手前、警察に逆らわない方が得策だと判断したらしい。自分自身を納得させるように頷くと、ファイルをこちらに差し出してきた。「ウチが情報提供したことは何なに卒とぞ内密にお願いしますよ」 内密にするのは一向に構わないが、デリヘル嬢との逢おう瀬せ を愉たのしんだと知られた時点で、客が店を疑うのは避けられない。栗俣の立場も理解できるが、無理な注文と言わざるを得ない。一ノ瀬も承知しているので、明言しないままファイルの情報を写し取る。「ナミちゃん、自殺だったんですか」 不意に栗俣が質問を投げて寄越した。いち早く反応したのは笘篠だった。「どうして自殺だと思うのですか」「他人に恨まれるような子じゃなかったからです。単純に」 栗俣の口調は今までと打って変わって真面目なものだった。「自殺をほのめかすような発言があったんですか」「そういうのは全くありませんでした。ただですね、色々とオープンな世の中ですがフーゾクに