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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

17勤めようなんて子はやっぱりそれなりの事情を抱えていることが多いです。ナミちゃん、容姿は十人並みで、特別愛想がいい訳でも、人一倍エッチが好きというタイプでもありませんでした。そんな子が週五日もデリヘル嬢しなきゃならない。他の女の子も似たり寄ったりです。他に条件のいい仕事があるなら絶対にウチの門を叩こうとはしなかったでしょう。時折、業界仲間から東京のフーゾク事情を聞くことがありますけど、小遣い稼ぎだとか趣味と実益を兼ねてだとか被災地に比べるとまるで別の国ですね」 言葉の端々に口惜しさと諦観が滲にじむ。取り締まる側とされる側の立場を越えて、被災地に住まう者の恨み節が伝わってくるようだった。「何人かのデリヘル嬢は東京に行ってしまいました。オリンピック景気で被災地に常駐していた労働者が一斉に東京の現場に引き抜かれて、その後を追うようなかたちですね。いったい東京というのは何様なんでしょうねえ」 口にこそ出さないものの、栗俣は奈津美を名乗る女の死に憤っていた。一ノ瀬からの要請に応じたのはもちろん職業柄の計算も働いたのだろうが、彼自身の義憤が後押ししたのかもしれなかった。 一ノ瀬の乗ってきた覆面パトカーに乗り込み、提供されたファイルを二人で確認する。記載されていたのは以下の情報だった。 ① 午後三時~午後五時 田中様 TEL080―〇〇〇〇―〇〇〇〇 ホテルグランディア625号室