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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

18 一 生者と死者 ② 午後七時~午後九時 山田様 TEL090―〇〇〇〇―〇〇〇〇 ホテルイン気仙沼414号室「田中に山田か。最初っから偽名だと開き直ったような名前ですね」「デリヘルで偽名を使っても、宿泊者名簿には本名を記載するヤツがほとんどだろう。電話番号との照合も名簿でできる」「そう願いたいものですけど、笘篠さんの方は大丈夫ですか。ウチに協力していただくのは全く構いませんけど、県警本部も結構な数の案件を抱えているでしょう」「俺のことは気にしなくていい」 笘篠はそう言ってファイルの情報を凝視する。田中と山田。この二人が彼女と最後に接触した人間だ。栗俣の証言によれば彼女は生活面の苦労はあった様子だが、決して自殺をするような素振りは見せなかったという。そんな彼女が直近になって自殺を決意したというのなら、この二人との接触が関わった可能性がすこぶる大きい。性的なサービスを提供してきた彼女が最後の客に何を話し、何を告げられたのか。 名前と住所を偽り、風俗嬢までして生きてきた女が自ら命を絶たなければならない理由とは何だったのだろうか。 笘篠にはその問いが、殺人事件の犯人を挙げるのと同等の謎に思えてきた。