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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

194 翌日、また一ノ瀬から電話連絡が入った。『不明女性が鎮痛剤を購入した店が判明しましたよ』 電話を受けたのは、とある強盗事件の容疑者の尋問を終えた時だった。複数の事件を同時に抱えるのは当然だが、やはり不明女性の事件は笘篠にとって特別だった。『幸さいわい町ちょうのドラッグストアです。購入したのが閉店間際で、しかも鎮痛剤一箱だけだったので、店員も憶えていました。伝票も確認しましたが商品名も一致しています』「おい、幸町といったら」『ええ、彼女が最後の客を取ったホテルイン気仙沼の所在地です。ホテルを出たその足で鎮痛剤を買い求めたんですよ』 一ノ瀬の口調は心なしか弾んでいるように聞こえる。本人が自ら買い求めた薬物を人けのない海岸で服用した。こうした裏付け捜査で自殺説はほぼ確定したと言っていい。気仙沼署としては事件が一つ片づき、捜査員への負担が軽減する。 だが笘篠は終われない。不明女性が奈津美の名前と住民票を取得した経緯、そして何が彼女を自殺に追い込んだのか。これらの謎が究明されない限り、笘篠にとっての事件は終結しない。「一つ片づいた直後で悪いが、当日の客たちから事情を訊きたい。田中某と山田某の宿泊者名簿には着手したのか」