ブックタイトル中山七里「境界線」
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『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。
21「もちろん無理にとは言わん」『言っているようなものですよ。分かりました。明朝、官舎までクルマを回します』「悪いな」『今回、笘篠さんは謝ってばかりですね。似合いませんよ』 通話を終えてから、それが一ノ瀬流の皮肉であるのに気がついた。 翌朝、一ノ瀬の駆る覆面パトカーに同乗した笘篠は陸前高田市小友町へ直行した。気仙沼市と同様に甚大な被害を被った陸前高田市だが、やはり同様に復興の槌音が途切れがちだ。震災当時、津波によって市役所庁舎を含む市の中心部は壊滅し、8069世帯の半数以上4041世帯が全壊・半壊の憂き目に遭っている。震災後は大掛かりな土地区画整理と再開発を計画したが、予定通りには進んでいない。多くの場所が土砂の色に沈み、新建築よりはプレハブ住宅が目立つ。 嵩かさ上げされた高台と行き交う重機は希望の徴しるしだが、オリンピック需要に労働力を取られた現場にはうそ寒い風が吹く。 車窓を眺める笘篠と一ノ瀬の上に沈黙が落ちる。この光景を前にすれば、どんな言葉も空しくなる。「一瞬なんですよね」 ぽつり、と一ノ瀬が呟いた。「この辺一帯の事業計画は二〇二〇年度に完了予定とされています。十年近くかけて街を新しく作る。それでもまた未曽有の津波に襲われたら街は一瞬で壊滅する。まるで砂の城じゃないです