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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

22 一 生者と死者か」 先日の栗俣の呪じゅ詛そ が伝染したかと思った。 いや、違う。 自然に対する絶望と敬けい虔けんは震災を経験した東北人全てに共通する思いだ。どれだけ復興の槌音を耳にしても、どんなに真新しい建造物を目の当たりにしても、無常感が付き纏う。一瞬の破壊力を身に沁みて知っているから、永続という言葉が白々しく思えてしまう。 一ノ瀬に返す言葉は見つからない。黙っていると全肯定するようで癪しゃくに障るが、何をどう言っても無意味だ。「荻野の住まいは小友町だったな」「小友の第二仮設団地ですよ」 ハンドルを握っている間、一ノ瀬が不機嫌そうだった理由がようやく理解できた。 陸前高田市小友町獺う そ沢ざわ第二仮設団地、通称モビリア仮設住宅。以前オートキャンプ場だった敷地に建てられた全六十戸の仮設団地だ。オートキャンプ場だったので区画ごとに上下水道・電気が完備されており、震災直後は避難所として利用されていた。 荻野はその仮設団地の住民だった。栗俣の証言では不明女性は震災で職を失ったとのことだが、つまりは震災で職を失った女が震災で家を失った男に春を鬻ひさいでいたという格好になる。 それは堪らなく理不尽で辛い図だった。 午前七時、荻野はまだ家にいた。独り住まいという理由だけではないのだろうが、無精髭と腹