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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

23の目立つ男だった。「荻野雄一さんですね」 ここでの質問は笘篠が担当することに決めていた。最初、警察の訪問を訝しげに受け止めていた荻野だったが、〈貴婦人くらぶ〉の名前を出された途端に慌て出した。「あのデリヘル、何か違法な店だったんですか。俺、本番行為とかしてませんよ。ちょっとマッサージしてもらった程度で」 デリヘル嬢を相手にマッサージ程度も何もないものだ。内心で苦笑しながら笘篠は相手の表情の動きを見逃さない。「午後三時から五時までの間、ナミという女性が接客をしていましたよね。そのナミさんは翌日、気仙沼市の海岸で死体となって発見されました。ご存じでしたか」 初耳だったらしく、荻野の目が大きく見開かれる。演技なら大したものだと思う。「知りませんよ、そんなこと。まさか客だったからって俺が疑われてるんですか」「そんな容疑はかけていませんからご心配なく。知りたいのは死んだナミという女性のプロフィールです。彼女がどこで生まれ、今までどんな生活をしていたのか。あなたの相手をしている間、そういう話は出てきませんでしたか」 笘篠は?んで含めるように説明する。すると荻野はようやく事情聴取の意図を理解したらしい。「まあ、座ってください。散らかってますけど」 社交辞令ではなく本当に散らかっているので、笘篠と一ノ瀬は足元に注意を払いながら床に腰を下ろす。