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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

24 一 生者と死者「気仙沼署の刑事さんですよね」「ええ、まあ」「仮設住宅に住まわせてもらっている身の上でフーゾク通いはけしからんとお思いでしょうね」「自分で稼いだカネをどう使おうと本人の自由です。被災者は性的なサービスを受けるなというのも歪んだ道徳でしょう。強制された道徳はただの暴力です」 警察官の口から寛容な言葉を聞いて安堵したらしく、荻野は小さく息を洩らす。「プロフィールって、要は身の上話ですよね」「あなたは彼女の二時間を買った。二時間というのは結構長い。もちろん言葉を発しない時間もあるでしょうが、それでは間が持たない。接客業をしている女性はそれなりに話術も会得しているものです。内容の幅や巧拙はあっても、お客が会話を愉しむために色んな話題を提供するのが普通でしょう」「ええっと、ちょっと待っててください」 荻野は彼女との会話を回想するかのように両目を閉じる。「ナミちゃんが部屋に入ってきて……今日は蒸して汗を?いたから、すぐにシャワーを浴びたいって。それで彼女から先にシャワーを浴びて、オプションの説明に入って、まあ後は、その、流れに沿って」 行為の実況は不要だったが、行為から辿らなければ会話も手繰り寄せられないらしい。笘篠は黙って聴くことにした。「お互いの身体について褒めたり褒められたり、ナミちゃんの肌が白かったから秋田生まれかっ