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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

25て尋ねたら、地元出身と言われて」「地元出身。正確にはどこですか」「物心がつく頃には北関東と東北を行ったり来たりと言ってましたね。東北の冬は厳しいけど、北関東のからっ風もキツいって。俺は東北から出たことがないんで、ここと同じくらい冬が厳しい地方もあるんだって興味が湧きました」不明女性が北関東に在住していたというのは新情報だ。無論、客相手に架空の話をした可能性も否めないが、北関東のからっ風という固有のネタに言及していることから信憑性は高いと思える。「話していると、ナミちゃんの訛りが俺とほぼ一緒だったんで、どこの生まれだって話になって……ナミちゃん、五歳までは気仙沼に住んでいたらしいんです。それを親の都合か何かで北関東に引っ越して……そんな話でしたね」 ?がった。 やはり不明女性と気仙沼には縁があったのだ。南町の住民から有益な情報はもたらされなかったが、彼女が五歳で転居したという事情ならそれも頷ける。古くからの住人である佐古ですら三十年前までしか記憶を遡れなかったではないか。 死を決意した者が生まれ故郷の海岸を最後の場所に選ぶ。 いっとき数えきれないほどの死と直面した者なら、その気持ちも容易に理解できる気がする。五歳といえば物心つく頃だから、彼女にとって忘れ難き思い出があったとしても不思議ではない。幼少期の甘い記憶に抱かれながら死にたいというのは、至極当然の心理だろう。 だからこそ別の疑問が尚更大きくなる。彼女に死を選ばせた直接の原因は何だったのか。