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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

3た者の務めだ。もちろんその選択は本人に委ねられているが、笘篠の場合は県警の辞令が背中を押してくれた面がある。「県警の関係者にも被害を受けた者は少なくなかったですよ」「情実を踏まえた人事なら有難い話なんだけどねえ」 佐古はどっちつかずの物言いをする。一方的に決めつけようとしないのは相変わらずだった。「今日はどうしたんだい。ひょっとしてまた異動で舞い戻って来られたのかい」「生あい憎に く、仕事ですよ。先日、この先の海岸で女性の死体が発見されたでしょう。生前の彼女を目撃した人を捜しています」 佐古はああと呟いてから、笘篠をバーバーチェアに誘う。「いや、仕事中なんですよ」「最近、鏡を見たことがあるのかい。黙って座りな。髭を当たるだけだからタダにしてあげるよ。第一、相手が座ってないと話しにくくてしょうがない」 抵抗して佐古の機嫌を損ねたら藪やぶ蛇へ びなので、おとなしく従うことにした。 鼻の下から?、そして顎までをシェービングクリームで覆ってから、熱々のタオルで蒸す。久しぶりの快感に表情筋が嬉しい悲鳴を上げそうになる。たっぷり湿らされた?と顎が外気に冷やされたかと思うと、温ぬ るめのシェービングクリームが再び塗られる。「警察っていうのは誰も彼も律儀なもんだね。死体が発見された当日には気仙沼署の刑事さんがウチにもやってきたよ。こういう人、見掛けませんでしたかって。気仙沼署の刑事さんが訊き回っているのは当然としても、どうして笘篠さんがやってくるのかねえ」