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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

4 一 生者と死者 とぼけようとしたが、?にカミソリを当てられていては碌ろくに声も出せない。「さっきは仕事だって言ったけどさ。ただの自殺ならわざわざ宮城県警の刑事さんが足を運ぶもんかね。死んだ女が自分に関係しているからじゃないのかい」「違います」 ?からカミソリの刃が離れたのを見計らって短く受け答える。「じゃあ、どうして。七年もご無沙汰だったのに、急に懐かしくなって戻って来たって訳かい」「気仙沼署の捜査員は女性の写真を見せただけでしたか」「あとは着ていた服と背格好だけだね」 再び刃が皮膚を撫でる。「発見されたのが朝の五時っていうじゃないか。いつ死んだかなんて知らないけど、だったら前の日の夜から当日朝にかけて海岸に辿り着いたんだろうね。昔みたいに通りが?み屋で賑わっていたら深夜に彼女を見かけた客がいたかもしれないけど、今はこんな状況だからね」 海岸前で開店している?み屋は一軒きりで、しかも深夜ともなれば店舗も民家も少ない南町では人通りも絶えるに違いなかった。「ここで床屋を開業して三十年以上になる。ご近所なら他よ所そに移った人間だってほとんど憶えている。だから俺の証言はそれなりに信憑性があると思うよ」 佐古はカミソリを遠ざけて発言の機会を与えてくれた。こうなると軽い拷問でも受けているような気がしないでもない。「さあ言っちゃいなよ。どうして笘篠さんが捜査に参加しているか」