ブックタイトル中山七里「境界線」
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『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。
6 一 生者と死者「笘篠さんはあまり深く関わらない方がいいんじゃないかな」 多くを語らずとも、佐古の言わんとすることは痛いほど分かる。「何て言うかさ、いなくなった者に引き摺られるのは良いことじゃないよ。まあ、俺の場合は女房が早くに見つかったから、こんな無責任なことが言えるのかもしれないけど」「無責任だなんて思っていませんよ。お心遣い、ありがとうございます」「刑事に向かって調べるな、なんて言うのは床屋に散髪するなって言うようなものなんだけどね。いやホント、お節介にも程があるよな」 お節介というよりは相身互いなのだろうと思った。「とにかく海岸で死んだ女は南町には縁のない女だった。それだけは確かだよ」「感謝します」「あのさ、笘篠さん」 ドアを開けた笘篠の背中に佐古の声が被さる。「くどいようだけど、自分を責めるような真似はやめときなよ。この町に住んでいた人間は誰も彼も散々自分を責めてきた。やっと固まりかけた瘡かさ蓋ぶたを?がすのはやめようよ」 背中で受けた言葉が内腑に沁みる。はい、と小さく答えて笘篠は店を出た。 理容店を出た後、やはり昔馴染みの中華料理店と居酒屋を訪ねてみたが、前日も当日も件くだんの女は見かけなかったという。実りのない訊き込みだったが、それより堪こたえたのは各々の店主も佐古と同様の慰め方をしたことだった。