ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

9を証明できないだろ」 そして逆の場合もある。 奈津美も健一も、あの日から還らない。だが住民票の上ではまだ生存し、何より笘篠が二人を憶えている。記録と記憶の二つがある限り、二人はいつまでも生き続けることができる。「それはそうと南町の訊き込みは進んでいるんですか。笘篠さんも訊きに回っているんですよね」「ああ、一応な」「一応って……らしくない言い方をしますね」 目ぼしい成果が何もないばかりか、訊き込みの相手に慰められたのだから立つ瀬がない。笘篠にしてみれば虚勢を張るのがやっとだった。「津波被害の甚大だった南町に、未だ住み続けている住民たちが揃って同じ証言をした。死んだ女に面識はない。前日も目撃しなかった。海岸を死に場所に選んだが、女がここの出身だと思えない」「海岸で死のうとしたのには、それなりの理由があると思うんですけどね」「南町に縁のない人間が海岸を死に場所に選んだというのなら、また別の疑問が湧いてくる。女の死亡推定時刻は二十八日の午後十時から十二時までの間だから、海岸前の通りを歩いていた頃は店も閉店しているし、あの辺りは街灯もない。ほとんど真っ暗だ。土地鑑もない他所者がどうやって海岸まで辿り着いた。言っておくが、海岸の方向を示す標識の類もその時間には闇に紛れるから役に立たない」「潮の香りを嗅ぎつけたとか」