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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

10 二 残された者と消えた者通に接していられたんです」 枝野の言葉にわずかな棘とげがあった。「あんなことというのは何です」「中学の頃、わたしと彼女は今と全く逆の立場だったんです。スクールカーストってあるでしょう。中学時分、珠美はトップのグループにいてわたしは底辺でした」「とてもそんな風には見えませんけどね」「刑事さんは仙台の人ですか」「東北の各地を行ったり来たりですよ。それが何か」「当時、仙台市内といっても郊外はまだまだ田舎でしてね。ヤンキーみたいな不良が人気者だったり、逆に勉強のできるヤツは最底辺に敷かれたりするんです。生活圏が狭くて近くに大学が存在しない。だからそもそも大学進学なんて発想がなくって、地元での力関係がそのまま成人以降も続く。鬼河内珠美はそういう不良グループの一員で、わたしは彼女たちから毎日のように虐げられていました。珠美本人からも殴られたり小遣いを巻き上げられたりしていました」 その力関係が二十何年ぶりで会ったら逆転していたという訳だ。枝野の昏くらい喜悦は容易に想像がつく。「ここで会ったが百年目で、いかに今の自分が幸せで恵まれているかを滔と う々とうと語りました。それも肌を合わせている最中に。昔話をすれば現状との逆転が際立つし、ひどく困窮しているらしく彼女は自分の現状を語ろうとしない。わたしが自慢話をしてもこっちは客だから、彼女は営業スマイルを崩せない。話せば話すほど爽快感が増していきました」